senyu→戦士と勇者と魔王と旅人 | ナノ
21 鳥籠
※三章ネタバレ
※メンタルがそこまで強くないロスさんを書いてます
※ロス視点









































これまで自分がいたのは、鳥籠の中だったのではないか。

そうロスは思うことがある。
あの日、父親と親友を同時に失った日から、まるで飼われた鳥のように身動きが取れずに過ごしてきたように思うのだ。
それは傍から見ればどれだけ惨めだっただろう。
けれどその頃は、この事実にすら気づかなかった。気づかないほど、参っていたのだろう。





魔界を放浪し、初代魔王を封印したと思ったら、いつの間にか次元の狭間から人間界に戻っていた。
長い長い時の中の、ほんの一瞬の気まぐれで勇者付きの戦士に志願して。
そうして、ある一人の少年と、ある一人の少女に出会った。

一期一会という言葉がまるでぴったりで、今となっては笑いさえ込み上げる。


全く頼りにならないツッコミ気質なその勇者は、本当に何も役に立たなかったし、勇者の威厳すらなかった。それなのにどうしてかオレの中に、オレ自身でさえも気づかないようなぬくもりを残していく。少女――旅人の方も然りだった。

やがて三代目魔王と名乗る幼い少女が旅に加わり、さらに賑わしさが増した中、ようやくオレは今まで蓄積されてきたぬくもりに気づいた。彼らとともにいることが心地良いと感じている自身に、このまま旅を続けていたいと思う自身に、気づいてしまった。
それでいいじゃないかと感じる反面、頭の奥をちりちりと焼けるような嫌な痛みを覚えた。


嫌な予感というのは当たるもので。
次元の狭間に封印されていた初代魔王の配下との戦闘が避けきれないものとなった。
オレはすでに自分の中で大きな存在となっていた少女を危うく失いかけて、同時に気がついた。
彼らと出会ったことで、少しでも外の世界に触れることができたと錯覚していただけだったということに。
鳥籠から抜け出せたのだと勘違いしていただけだったということに。

次元の狭間で、皮肉にも以前と変わらず初代魔王と同じ空気を吸う。
気が狂ってしまいそうだった。全てが始まったあの日から、自分は決して成長していなかった。
そうやって己に嫌気が差して顔を顰めるオレを見て、初代魔王はけらけらと哂った。

オレが二の足を踏んでいる間にも、人間界ではかの勇者や旅人が奮闘していた。
共に旅をしていたころよりも、見違えるほど成長した彼らに柄にもなく助けられて、初代魔王を倒すことに成功した。
失っていたと諦めていた親友も取り戻すことができた。


結局諦めていたのはオレの方で、彼らは全然しぶとく生きていた。
親友を失って囚われて、どうしようもない枷に雁字搦めにされて、本当にしたいことも、するべきことも見えずにいた。

そんなオレの道標になったのは、あの二人を他にない。
彼らに出会わなければオレの時間は、多分いつまでもあのころから止まったままだっただろう。

鳥籠から出ることに迷いがなかったといえば嘘になる。
しかし過去ばかり見ている甘い人間ではいられなかった。これからは現在(いま)を、未来を生きていきたかった。


「しーたん! 着いたよ! 新しい街だ!」


もう聞くのも千年ぶりの親友の声に、物思いに耽っていた頭をクリアにして前を向く。
その懐かしい無邪気な笑みに、思わず口元が緩む。

彼らが共に切り開いてくれた未来だ。そんな未来なら、したいこともするべきことも、全てはっきり見えるようになった今は、どんなに不格好でも堂々と歩くことができるに違いない。


▼ アニメ二期opをイメージして書いてみました!
  名前変換なくてすみません……;;
  私はロスさんは一見心身共に強そうに見えるけど、実はメンタルは人並みだったりするごく普通の人なんじゃないかと思ってます
  2013/07/12(2013/09/08up)
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