08 悪夢
※一章end
※14
物語の続き(ロス視点)
※原作改変あり
――これはいったい、何の悪夢だ。
ディツェンバーの攻撃の矛先が勇者さんに向くなんてことは、全く予想していなかった。
このオレたちの空気を一変した存在だとしても、弱い勇者さんを相手にするはずがない、と思い込んでいた。それが間違いだともっと早く気づいていれば。今オレの視線の先に、勇者さんを庇って身体を真っ二つにされた黄昏は転がっていなかった。
即死。
瞬く間に広がる血液。
赤い水溜りがどんどんと広がっていく。
庇われた勇者さんは腰を抜かして、その光景を前に愕然としていた。心なしか顔が青白く見えた。
彼女が胴体を裂かれた瞬間を見ていないわけではなかった。
ただこのときだけ、足が竦んだように動かなかった。まるで夢のように思った。誰も死なないと思っていた。根拠もなく。それが馬鹿げた根拠だった。
もう死んだ。
あの黄昏は、笑わない。
オレに、微笑んでくれない。
――ああ、オレが、殺してしまった。
頭が真っ白になって発狂してしまいそうだった。
彼女と過ごした一瞬一瞬が走馬灯のごとくオレを襲った。
嫌だ、嫌だ、と駄々をこねて喚く自分を蹴り飛ばす。
一番彼女を失いたくないと思っていたことに今更気づいたところで、すでに遅いというのに。
*
どうせ勇者の力を使った時点で次元の狭間に戻らなければならないことはわかっていたし、そもそも自分がここにいるはずのない存在だということも承知していた。
だからオレは、戻っただけだ。
別れの際の言葉が上辺だけのものだと気づかれただろうか。
それでもいい。それでいい。
「……お前はただ怖かっただけだろう?」
黙れという意味を込めルキメデスを睨むと、こいつは可笑しそうにけらけらと笑った。
「素直に認めろよ。自分のせいでまたあの子が死ぬんじゃないか、それが怖かっただけだって」
「……ッ黙れクソ野郎!」
勢いに任せて殴り飛ばす。
確かにこの拳で一撃を入れたはずなのに、もやもやとしたままの自らの心に悪態をつく。
痛いほど掌を握り締めても、奥歯を噛み殺しても、どこになににあたっても、この感情は消えそうになかった。
ずっと、忌々しい魔王が愉快なものでも見るようにオレを見て嗤っているのがひどく腹立たしかった。
▼ 『黄昏』とは夢主のことです。
2013/04/08(2013/07/14up)
←
戻る
[ 7/23 ]← | →