18 寝顔
――それは、野宿をしていたある夜のこと。
わたしは今夜の見張り当番のため、アルバやルキ、ロスが寝静まったあとも交替する四時間後まで起きていなければならない。
要するに夜中を超えても、何があろうと俊敏に対応できる余裕を持っていなければならないのだ。
これがかなり難しいことで、深夜過ぎまで起きていることに慣れていないわたしは今まで幾度となく寝落ちしたことがある。
三人には申し訳ないことをしたと、心の底から思っているが、まあ幸いにもものを取られるということはなかったのだから一応よかったとしよう。
そもそも今回のような荒野のど真ん中の岩陰にまで、わざわざ盗みに来るような者もいるまい。
だんだんと落ちたり上げたりを繰り返す瞼に、今日も寝落ちかななんて眠りかけの頭で開き直り始めた。が、しかしこれではやっぱり駄目だろうという真面目な『わたし』がいるわけで。
座っているままでは眠気も強いだろうと判断して、立ち上がる。
眠っている三人が起きないように、何をするでもなくあたりを歩いた。
天高くのぼった三日月がぼやぼやと世界を照らしている。
「ロスのバリサン〜」
びっくりして肩を震わせたが、ただのアルバの寝言だった。
台詞も謎である上に、拳を突き上げているあれはなんなのだろう。
バリサンをもぎ取った夢でも見ているのだろうか。
くすくすと笑みを零していると、「ごふぅッ」。
なんとルキが顔をしかめて隣のアルバの腹を蹴っていた。
就寝中でも不憫なのは変わらないアルバを見てちょっとかわいそうだなあと感じる。
それにしてもルキちゃん、女の子が眉間に皺なんて寄せちゃいけませんよ。
一方でロスは、と目をやる。
月明かりに照らされた顔に思わず息を呑んだ。
ありえない。普段のドSっぷりに惑わされていたけれど、眠っているロスはむかつくほどにイケメンだった。見惚れる、とはこういうことを言うのだろうか。
自然と足が近づき、手が伸びた。
「――寝てたら格好いいのに、とか思ってるんじゃないんですか?」
ぱちりとその赤色が覗き、一秒の猶予もなくロスのタオルケットの中に引きずり込まれた。
後ろから抱き込んだ体勢のまま、驚きで声も出ないわたしの耳元でロスは口を開く。
「残念でしたね旅人さん。オレ、眠りが浅いもので」
無駄にいい声してるんだから、わざと耳に触れるか触れないかの微妙なところでしゃべるのをやめてほしい。なんていうわたしの怒りは最高潮の恥ずかしさで言葉にすることができなかった。
ロスはくくっと喉を鳴らせて笑う。
「なんでそんなに真っ赤なんですか。おいしそうですね食べちゃいますよ」
ロスが言うと冗談に聞こえないんだけど……!!
身の危険を感じて体をよじると「逃がしませんよ」と掠れた声が耳朶を擽る。
「……ッロスのへんたい!!」
ようやく出せた台詞にロスはいつものようにストレートに返してきた。
「変態はどっちですか。先に寝込みを襲おうとしたのはそっちでしょう」
「襲おうとなんかしてない!!」
「そうですか? でもオレにはそう見えたもので、襲われるなら襲ってしまえー!、と」
抱きしめられている状況でロスの顔が見えなくても、それがとてもイイ笑顔であることは想像がついた。
思わずはあ、とため息をつくわたしに「幸せが逃げちゃいますよ旅人さん」と白々しく声をかけるロス。一体誰のせいだ誰の!
「……ともあれ明日も朝早いですしもう寝ましょう」
わたしを背後から抱いたまま寝る気満々なロスに反論すると「どうせ盗人なんてきませんよ。見張りなんてするだけ無駄です」。
さも当然そうに言い切られたので、そういう意味で問うたのではなかったけれどまあごもっともと頷くしかなかった。
これ以上反抗しても無駄だと思ったのも事実だし。
加えて、正直もう眠気がMAX状態でロスに対抗する気力すら出なくなりつつあったのだ。ドSさまの体温とはいえ、人肌に包まれているとだんだん眠たくなってくるのはどうやら本当らしい。
「……おやすみなさい、アンジュ」
意識がほどけて、ふよふよと夜を漂い、あたたかな深淵に沈んでいく。誘われるように眠りに落ちる途中で、わたしはロスの声をきいた気がした。
▼ 砂糖四割増しくらい(当社比)
しかしPPの方の話とラストが被ってしまった……
2013/04/03(2013/08/04up)
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