senyu→戦士と勇者と魔王と旅人 | ナノ
30 恋
「ねえアルバ、恋ってなんだと思う?」

ロスのいなくなった世界。
お互いに王宮直属勇者として、一年前の後始末のため旅をするようになっていた。
一緒に、ではなく別々に世界を練り歩いているせいで顔を合わす機会がほとんどなくなったアルバが、偶然にもわたしと同じタイミングで城に帰ってきたらしく、王様への報告を済ませてから積もる話をしているといつの間にかこんなことを口走っていた。
口からぽろりと零れたのも同然なその言葉に、もちろんアルバも少し驚いた表情を浮かべたが、すぐに「また唐突だね」と笑った。
こうなったら仕方ないと腹をくくり、話を続ける算段をする。

「……うん、まあ、こうやって一人で旅してると、いろんなことを考えるでしょ?」

アルバは頷く。その顔は心持ち硬かった。十中八九、ロスが消えた日のことを思い出しているのだろう。
アルバが思いつめる必要はどこにもないのに。本当に優しい人だ。

「そんな中でさ、ふとね、わたしってロスのことが好きで、いわゆる『恋』ってやつをしてたのかなって考えたの」

ロスがいなくなって、思いを馳せる余裕が出てきたと言えばまったく不謹慎な話だ。
でも事実そういう部分もある。四人で旅をしていたころは、そんなこと全然思いもよらなかった。ただ楽しかったから、このまま四人で旅が続けられたらいいという漠然とした、しかし愚かなことを願っているだけだった。
心の中にぽっかりと大きな黒い穴が空いたとき。その穴の理由を追い求めたとき。ようやく、友情ではない意味でずっとロスを好きだったのだということに気がついた。答えに辿りついたのが遅くて、遅すぎて、もうどこにもロスはいなかったけれど。

「恋は、強く焦がれるものだって思っていたんだけど、わたしはそうじゃなかったから、恋っていったいなんだろうと思って」

窓の外に視線を向けると、世界のどこかには、まだロスがいるんじゃないかと錯覚した。
アルバはそんなわたしをどんな瞳で見ていたのだろう。

「強く焦がれるものも恋だと思うけど、それだけじゃあなくて、ボクはアンジュのその感情も恋だと思うよ」

どこまでも追いかけて、なりふり構わず想い人を求める。それがわたしの思っていた恋だった。
だけど実際はまったく違った。
ロスがいなくなって、自分の気持ちに気がついても、強く突き動かされるなんてことはなくて、ただぼんやりとしたまま諦めにも似た思いがじわりと滲む寂しいものだった。
もしかすると誰よりも過去に縋っているのは自分なのかもしれない。ロスがいなくなった日、前だけを向いて進んでいくと決めたのに。本当のところは思っていたよりもきつかった。『前だけを向いて』なんて、歩いて行くことすらできなくなっていた。

「アンジュはこんなこと言ったら怒るだろうけど、ボクから見ればアンジュはちゃんと恋をしていたし、その気持ちはロスにも届いてるよ。これまでだけじゃなくて、これからも、ずっとだ」

アルバはどうしてこうも、わたしのほしい言葉をいつもくれるのだろう。
そうしてわたしは決まってその言葉に背中を押されるのだ。また、前を向いて進んでいこうという気持ちになるのだ。
ほんと、アルバ様様だよと感慨深く思いつつ、アバラから無事アルバに進化した勇者様に感心しつつ、

「……ふふ。……アルバ、ありがとう」

笑みを零して礼を言った。


▼ 似非シリアス()
  原作はここまでシリアス臭してませんが、まあブルーになる日もあるよねってことで!
  2013/03/27(2013/04/08up)
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