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若草色
「あ、」

ある春の日。
新撰組居候中である杏樹は、屯所の縁側で、でっかい猫――もとい一番隊組長沖田総司が寝っ転がっているのを見つけた。

“珍しい……”

思いながら、杏樹は彼に気付かれないようにゆっくりそっと近付き、その隣に腰を下ろした。
柔らかな春風が、彼女の長い金髪を揺らして吹き去る。
いい歳してぐっすり眠っている総司を、杏樹は改めてまじまじと見つめた。
起きる気配がない。それはそれで安心する。
見るたびに猫っ毛だなあと思う、その細い髪は女として羨ましい。
男にしては肌の色が白い方なのだが、しかし綺麗だ。深夜の巡察とかがあって規則正しい生活なんてままならないこの組織にいながら、なぜだろう。
そんなことを考える杏樹の手は、自然と彼の髪を梳く。
一瞬、こんな板間で寝て痛くないのかという疑問が浮かび、膝枕でもしようかと思わないでもなかったが、それは恐れ多いと思い直した。試衛館時代のころから、こいつの性格は物騒だからな…………。

どこか遠くに視線を向け、目を細めて昔のことを思い返す彼女の表情は、とても――ひどく優しいものだった。

そして目を覚ましてそれをばっちりと目撃していた、総司は。
つとこちらに向いた杏樹と目が合った。

「そそそそっ総司?!」
「おはよう」

何を考えているのか全くわからない、その若草色の瞳に見つめられ、いつの間に起きてたのッ?!と慌てて言外に尋ねる杏樹に、彼はいつもの挑戦的な余裕を思わせる笑みを浮かべ、

「今さっき」

と答えた。

「でもさ、そこにいたんなら膝枕なりなんなりしてくれればよかったのに……」

そのあと不満そうに唇を尖らす総司を見て、杏樹は一度目を見開いた後くすりと可笑しそうに笑った。

「して欲しかったんだ?」
「あたりまえだよ」

総司は言うと、体を起こし、

「――だから、その代わりだと思って」
「ちょっ?!」

抱きしめられた。からかうような口調の反面、背中に回された手は優しかった。
普段の彼からして違和感がありすぎて、思わず何か企んでいるんじゃないかと思ってしまう。不可抗力というものだ。

「離せって!!」

羞恥に顔が火照ってくるのが解り、杏樹はぐいぐいと総司の胸板を押す。

「やだよ。あと、ほんのすこしだけ」

とかなんとか言いつつ、肩に額を預けてきた彼はすぐにまた寝息を立て始めた。
う……髪の毛がなんかくすぐったい。
ほんと、大きい猫みたいだよねえ。可愛い、なんて思えてくるんだから、わたしもそろそろ末期かもしれない。

「はあ……」

仕方がないなあ、と苦笑まじりのため息を吐いて、杏樹も春の陽気に身を任せたのだった。
                       

( たまにはこんな日も )


▼ 薄桜鬼です。
  2010/05/09(2012/12/27move)
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