鉛色 “曇天………か”ツバメが低空を飛んで行った。 こういう天気のとき、どうしても気分は沈むものだ――とゆずは定義している。 鈍い灰色の空は、今にも涙を落してきそうなほどに歪なうねりを放っていた。 こんな天候を、彼は好かない。 もともと曇り空が好きなんて奴はいないと思うし、なにより――昔の、攘夷戦争のころを思い出すからだ。あのころの記憶が悪いものばかりだったかと問われれば、それは否だ。 しかし、今ではそれは過去のことだと割り切っておくしかない。かつての仲間はもうバラバラの道を歩み始めた。内一人は、取り返しのつかないところまで離れてしまった。 思いだしてしまうのだ。あの男を。どうしようもなく自分の道を突き進みすぎた、鬼神の姿を。『修羅』という言葉が似合いすぎるあいつのことだ。きっと春雨と何かを企んで、またいざこざを吹っかけてくるに違いない。 受けて立つと決めた。それを変えるつもりはさらさらない。ない、のだが、 「なんだかなあ……」 小さな神社の境内の、賽銭箱の手前の階段に腰を下ろし、かと云って雨が降りそうな空を仰ぐような気にはなれなかった。 こんな胸糞悪い気分になったのは全部あいつの所為だこのヤロー!バカ杉め……!などと思いながら眉根を顰めていると、 「なーんて顔してんだ、ゆずくんよぉ」 「銀時!」 目の前に、白髪頭の天パ糖尿病駄目人間がいた。 「てめっ!銀さんまだ糖尿病じゃねーよ?!それにこれ銀髪だって!ね?!」 「……天パと駄目人間ってのは否定しないのな」 隣に立った銀時に、呆れてため息をつき、つぶやくゆず。 ――つーかなんでこいつ俺の思ったこと解ったんだ? ん?超能力?いやいやいや、そんなのこれに限ってあるわけないだろ。 「全部口に出してるからですよーゆずくーん」 ピクピクと口の端を引きつらせている彼の手には傘があった。 「あれ、それどしたの?」 ゆずの問いに、銀時は「ああ!」と声を上げた。なんだよ一々。 「神楽とぱっつぁんに言われたんだよチクショー!!迎えに行けってなッ!」 なぜかマジギレしている銀時に、「?」と首をかしげるゆず。 「別に一人で帰れるのに」 「どぅあーかぁーらぁー」 普段は鋭いのに、こういうところで抜けている彼に、銀時が悶えていると、 「貸せ」 「んあ?」 唐突にゆずが立ち上がって、何をするかと思えば銀時の持つ一本の傘をもぎ取った。 「つーかなんで一本だけ?」 「新八&神楽は買い物に行ってるからなー、ちなみにお前の傘は神楽が持っていった」 どうせならかわいー女の子と相合傘したかったぜ。 そうぼやく銀時に対し、ゆずは一瞬きょとんとする。 “ああそうか、この前神楽は傘壊してたっけ” いつの間にか、ついに雨が降り始めていた。ぴちゃんと雨粒が跳ねる音がした。 「男で悪かったな!このクソ天パ!」 悪態をつきながらも、その表情は澄んだ笑顔で。 銀時はそれを見て、驚いたように目を見開く。 「帰るぞ銀時ー」 そんな彼を尻目に奪い取った傘を広げて、すでに雨の中に立ち、くるくるとそれを回すゆず。 「……おう」 次の瞬間には、いつものように気だるげに返事をして、銀時は思う。 “こいつも、こんな顔するんだな……” 何の澱みもない笑顔をゆずに向けられたのは初めてだった。 ――そして男二人でむさくるしくも相合傘をして帰ったのであった。 雨はまだまだ止む気配を見せずに、ただ優しく降り続いていた。 ( たまにはこんな雨の日もいいかな、と思ったある日の出来事 ) ▼ うーん……。腐……臭い……か…な…?まあ、とりあえずは友情夢ということで!夢主のゆずは、銀さんやヅラ、高杉、辰馬とは腐れ縁設定です。 2010/05/06(2011/08/10up,2012/12/27move) ←back |