黄海松茶 「あれ?……杏樹?」さまざまな種類の店がレンガの道の両側を占拠する、とある街中。 フロックコートで黄海松茶色に似た髪を持つ青年――ヒューイは、見覚えがあり前方を歩く金髪ポニーテールの少女を見つけ、声をかけた。 その少女――杏樹は、歩いていた足を止め、くるりとこちらを振り向く。 長く美しい金色の髪がふわりと揺れた。やわらかい匂いが広がる。 両手には茶色の紙袋を二つ抱えていた。野菜やパンなどが入っている。かくいうヒューイも黒の読姫の好物、揚げパンだらけの袋を抱えているが。 「ん。ヒューイじゃん」 杏樹はにこっと笑った。 「……今日はいないのか」 いつも彼女の隣にいるルシファーがいないことに、ヒューイは少し驚き尋ねた。 「あははー。多分ダリアンのところに行ってるんじゃないかな?」 「へえ……」 珍しいこともあるんだなと頷くと、明日は雨かもねーと杏樹が冗談を飛ばす。 二人の間をいまだ僅かな冷たさを含む春風が通り抜けた。 「寒ッ!」 「大丈夫か?風邪引くぞ」 暦の上では春とはいえど、まだ3月だ。 思わず季節に対する不満を叫んだ彼女に、ヒューイは言う。 そのあと、紙袋を杏樹に預け、しょうがないな……とつぶやき、何をするかと思えばコートを脱ぎ出す。 「ちょ、ヒューイ?!」 そして彼女の肩にかける。サイズ的にかなりぶかぶかで地面すれすれだが仕方がない。 ――まあ風邪を引かれないだけマシか。 うんうんと一人納得したように頷くヒューイだが、杏樹はわけがわからないという風に怪訝そうに首を傾げた。 「レディファースト、って言うだろ?」 フッとキザっぽく微笑んで見せ、その上ぽんぽんと頭を撫でる彼に、杏樹はそっぽを向いてぼそりと、 「この天然タラシめ……」 憎らしげに漏らす。その顔が赤く染まっていたのは気のせいではないだろう。 ――こうしてもらうのが嬉しいだなんて認めたくない……。 むむむ、と不機嫌そうに眉根を寄せる彼女を見て、「どうした?」と訊いたヒューイだった。 鈍感なのだ。多分、二人とも。 ( Bibliotheca Mystica de Dantalian & Big Bibliotheca Mystica de Lucifer ) ▼ 一体誰得!な夢小説;; ダンタリアンの書架とか……今アニメは放送中ですが……しかし需要はあるのでしょうか……。ちなみに。作中のルシファーという人物はオリキャラですよ。 2011/07/18(2012/12/27move) ←back |