short | ナノ

流れ星
暗く昏い、延々と広がる宇宙。
真っ黒なその空間を、杏樹はプトレマイオスの自室の窓から眺めていた。

ベッドの上で、脚を抱き寄せる。
丁度いまの宙域からは、青い地球が見えた。
――青い。
といっても、かなりの海は埋め立てられた。
地上で進んだ森林破壊は、ここ100年でなんとか元の景観を取り戻しつつあるらしいけど。星の大半を占めていた青は、徐々に姿をなくしていく。
漆黒の闇の中に、ぽつんと浮かぶ緑と青の地球が、映えていた。
だけれども、とてもそれは寂しく感じた。同時にむなしく感じた。

ふと、地球の傍を翠蘭の流星が流れ、幾つもの光が砕けた。

その流れ星は、人の願いを叶えるものではないことを、杏樹は知っていた。
決して人々の希望になるわけではないことも、知っていた。
しかし杏樹は、その流星に焦がれた。

明確な理由はなかった。ただ、綺麗だと思った。
それはむしろ、人に絶望を与えるものだと。人の命を狩り取るものだと。そう理解していながら。どうしても、嫌うことができなかった。
正義とはなんだろうと思う。
あの流星は、絶対に悪ではない。でもそれに絶たれてしまった未来(ひと)もまた、悪ではないのだ。
正義の定義が違うだけで。ただそれだけなのに。
人はどこまでも、解り合えない。ぶつかり合って、壊し合って。何回も繰り返して、やがて今までに生み出してきた、取り返しのつかない犠牲の数を思い出して。そうしてようやく、解り合える。本当に、どうしようもない。

けれど、一番。この世界で最もどうしようもないものが、自分だということに杏樹は気づいていた。

耳を澄ます。
すると聞こえる衝撃音。遥か遠くから、流星の許から届く変革の音。
静かな宇宙に、それはとても映っていた。

力だけでは何も為せないことをよく知る杏樹(彼女)は、だからこそ力を望むときもあった。
かつての己を、あの流星に映しているのかもしれない。

様々な思考や考慮は無意味だ、と言わんばかりに、杏樹は抱えた膝に頭を埋めた。
闇に、翠蘭の光が駆けて行った。



▼ なんとなくガンダム00。色はマイスター+夢主を表しています。
  2010/09/26(2011/10/21up,2012/12/27move)
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