short | ナノ

君を憎み、君に焦がれる
その日は丁度たまたま、担任の女教師が私にプリントを渡すのを忘れていた。
私も、貰うのを忘れていた。

そんなこんなで彼女が来た。

そうして彼女とハルは出会った。





んで現在。

「あーもー二人ともさっさとくっついちゃえよ☆」

って言いたくなる。ええとっても。

「どうしたの杏樹。頭おかしくなった?」

はあーとため息をついた私に、吉田ハルの兄、優山が反応した。
この毒舌には慣れている。

ちなみにここはみっちゃんのバッティングセンターの自販機前である。
今はすでに夜だから、人気(ひとけ)もない。
冷たい静かな空間。
ここだけ点いている蛍光灯が、向かい合ってソファに座っている私と優山を明々と照らす。

「いーえー別にー。ていうか、優山だってそう思わないの?」

「んー、俺はねー……」

私と彼は同い年ではない。私はいたって普通の、雫やハルの同級生だ。
だけどなんとなくタメ口。
……といより、この大人には敬語を使う価値がないように思える。
いっつもにこにこしてて何考えてるかわからない。
襟足長いしサドだしブラコン(つまりは弟ラブ)だし。
……でも時折、真剣になって鋭い雰囲気を帯びる。
わけがわからない。
そんなこいつに振り回されている私も。

「――ねえ優山、」

「なに?」

「――………………、やっぱりいい」

ああやだな。

膝を抱える、私。

全部見透かされてるんだから。
そうやって笑って、

認めたくないなあ。
認めたく、ないんだ。

たくさんの人に出会って、たくさんの人と接して。
だけど、彼にだけは、
優山にだけ、全部、ばれてしまった。
私が本当は、どんなに汚くて、穢れていて、ここに居てはいけない奴だってことを。
そんな私に彼は、一度だって優しくしたことはない。
――それで、よかったんだ。
それでよかったはずなのに。

今以上を求めてしまう。


――やめよう。


考えるのをやめよう。

とりあえず、雫とハルの関係をどう進展させるかだけに頭を使えばいい。

「――ねえ杏樹、気づいてる?」

「……何によ」

「――…………さあなんでしょう?」

くすり、と微笑む優山が憎たらしくて、ふんとそっぽを向いたら。
またくすくすと笑われてしまった。


――ああもう、大嫌いなんだから。





自動販売機の稼働音だけが、この静寂を震わせていた。


( 本当の気持ちなんて、知らない )


▼ やっちゃった……!
  『となりの怪物くん』前々から興味はありまして、先日友人に借りて読みました。すると、まあ、こんな感じで今に至ります。優山さんかっこいいです!ていうか、みんなかっこよくてかわいいんです!
  一方この短編ですが。……夢主にも、過去にいろいろあったんだろうなあということです。夢主は決して、暗い性格というわけではありません。明るさでいうと、夏目ほどではないけどササヤンっぽい感じです。
  相変わらずの駄文ですが、ここまで読んでくださりありがとうございました!    2011/06/04(2012/12/27move)


title:群青三メートル手前
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