あーあーあぁ ※これと同じシリーズです。※この話からの直接的な続きものになってます。 「って話もあったなあとふと思い出した次第ですけどー。あれえ? 杏樹さんどうかしたんですかァ?」 「あーあーあぁーもうわたし何もきこえないいいい」 放課後。 いつものグラウンド、 いつものメンバーで野球をしていたとき。 急に千昭が数ヶ月前の出来事を引っ張り出してきた。 数ヶ月……具体的に言えば三ヶ月前の出来事で、比較的新しいはずなのにもう過ぎ去った遠い昔のことのように思えて。 しかも、改めて思い返しても、あのときのわたしはちょっとどうかしてたと思う。 普通は柄の悪い転校生がたまたま通学路の公園のベンチに怪我をして座っていても、『不良』と関わりあいになりたくないから避けるのが普通で。ましてや、初対面の相手に『手当てしよう』と呟いた挙句に数十分にも上る口論の末に手当てするとか、いや、ほんとなんでっていう。 なんでそこまでしたの自分っていう。 たかが傷の手当てするだけなのにねっていう。 ほんと意味がわからないよっていう。 バッターである千昭がにやにやとした顔でバットを振る。 カキーンとそりゃあとてもいい音で飛んでいったそのボールを投げていたのは、今現在両耳を塞いでいるわたし。 「なんでそんな前のことなんか引っ張り出してくるのよバカ千昭!!」 大声で怒鳴って、真琴から投げられた球グローブで受け取り、それを再び千昭に全力投球する。 いやほんと功介と真琴が守備でよかった。 こんなのきかれてたらマジで困る。恥ずかしすぎて死ぬ。 「ははっ! 真っ赤な顔でキレられてもぜんっぜんこわくねーし!」 そしてまたカッキーンと清清しいほどに綺麗に打たれた。 くそこのやろう千昭のくせに!! 「野球終わったら真と功介にも話してやろーっと!」 「ふざけんなバカあああああ」 今度は功介が球を取ってくれていたらしいが、わたしが千昭と口喧嘩を繰り広げている間にその打球が少しずれて、てんてんころころ……とバックネットの方に転がっていった。 涙目になりながら、千昭の脇を通り過ぎてボールを取りに行く。 もう千昭となんか口もきいてやんないんだから。 マウンドに戻ろうと、そっぽを向いて再び千昭の脇を駆けていこうとすると、ぐいっと思い切り腕を引っ張られた。わっ、と思わず声を上げる。 「ごめん杏樹、からかいすぎたからこれで許せ」 ちゅ、というリップ音と額に柔らかい感触。 そしてゆっくり体を離される。 熱い。とにかく熱い。 口付けられた額も、掴まれた腕も。 触れられたところすべて。 「おーい。杏樹ー? だいじょぶかー?」 額を押さえて硬直しているわたしの顔は、きっと林檎顔負けな真っ赤な色をしているだろう。 悔しい。千昭相手に動揺させられるなんて。 ひらひらと掌を目の前で振る千昭に気づいてキッと睨めば。 「おーこわいこわい」 と降参のポーズをとられる。 全く怖いなんて思ってない表情と口調に、また腹が立ってくる。 よしよーし。こういうときは深呼吸だ。深呼吸。 落ち着け、わたし。 よくよく考えてみろ。 千昭が好きなのは誰だ? 千昭が口付けるべき相手は? 紺野真琴でFA? ――FA. 「あのね、千昭クン? あなたは真琴が好きなんでしょう?」 問うと、千昭は驚いた表情をした。 しかし次の瞬間には「おお」と首肯する。 「だったらね、なんでわたしにキスなんかするの。そういうのはちゃんと本命の女の子にしてあげなさい」 野球二の次状態で千昭に詰め寄る。 「え、だって俺――」 千昭は言いかけたが、 「いや、なんでもねえ以後気をつけます杏樹様!」 ビシッと敬礼してみせる。 わたしはそれに満足して「それでよろしい」と頷いた。 千昭が言いかけたことはなんだったのだろう。 きいてみたい気もしたが、本人が言うのをやめたことをわざわざ掘り返すのはいけないと、このときは口を噤んだ。 「おーい! 二人ともどうしたのー?!」 遠くから真琴が駆けてくるのが見える。 それと同時に、どこか意味深な顔をした功介も。 「ううんー! なんでもないー!」 わたしも応えながら、隣の千昭の横腹に拳を入れた。 「ぐふおッ」とイケメンならぬ声を上げる千昭に、心の中でざまあと笑う。 あのときと同じ、相変わらず澄み切っている青空を見上げて。 今日も一応わたしたちは元気ですよーと誰にともなく言ってみた。 ( 高二の夏はあなた色 ) ▼ もう残暑もなくなり、初秋が顔をのぞかせていますが。夏といえば時かけ、ということで以前に書いていたものをアップしました! こんな甘い話はもう書けないという自信があります。 2012/08/26(2014/09/19up) title:食べすぎた ←back |