俺にだって見えている ※書いた当初はスタドラ最終話記念に。今は映画を見た記念にアップ。※アニメ最終話のお話ですが、書いていた私がヘッドの存在を忘れていたので(←)、ヘッドがシンパシーから脱出できなかった設定になってます。 ※後日談が劇場版とは大変異なります。 「んなっ?! タクトもスガタもボロボロじゃん!」 「もーっ! 二人とも何してきたのっ……?!」 * 巫女の封印が解かれた後、宇宙(そら)へ昇って行ったザメクを追って、タクトの乗ったタウバーンも宇宙に出た。 ゼロ時間が崩壊した空間には、ゼロ時間前の居場所ではなく、今この場所に綺羅星十字団と俺とワコが残されていた。 タクトによって壊されたサイバディ『シンパシー』の残骸が、静かなる森に打ち捨てられている。 夜の静寂が支配する中で、夜空を見上げると、宇宙で放たれる何本もの光線が目に入った。 しばらくその流星のような光を眺めていたら、『シンパシー』のバラバラになった部品が、ガシャ、と音を立てた。 その音で、放心状態だった俺たちは我に返った。 「ワ、ワコっ無事か?!怪我は?!」 「…あ、うん……な、ない…よ……」 ワコに駆け寄り声をかけると、いまだ心ここにあらずという様子でワコが頷く。 わかってる。まだスガタとタクトが、戦っている。宇宙(そら)で、自分たちの感情をぶつけて。 「……っ頭取!ヘッドは!!?」 「わ、わかっているわ! 皆、ヘッドの捜索を!!」 スカーレットキス――寮長ベニオの一声に、頭取――ワタナベカナコが反応し、各団員が動き出す。『シンパシー』の残骸をかきわけて、ヘッドの身柄を探し始めた。 そんな彼らを横目に見ながら、夜空を見上げているワコの隣に並んで見上げる。 帰ってくるって信じてるから。 俺にだって、見えているから。 ――みんなでまた笑い合う日々が、見えてるから。 だから今は、待ってる。 お前たち二人が帰ってくるまで。 * 夜も更けきったこの夜。 生きているとはとうてい思えなかったヘッドが見つかり、彼を俵のように担ぎあげたカタシロと共に頭取が先頭を切ってこちらに歩いてきた。 「――今更謝っても遅いかもしれないけれど……本当に今まで、ごめんなさい」 「俺からも、謝っておこう。責任は、このどうしようもない友人を止めることができなかった俺にある」 そして一斉に頭を下げる綺羅星十字団。 仮面の取れたそのメンバーは皆、見たことのある人物ばかりで。 その中には――頭(こうべ)を垂れることはなかったけれど、そっぽを向いているケイトもいた。 彼女の横顔には、涙の跡が見えた。 この恋の果てに、彼女には何が見えたのだろう。その見えた先で、少しでも彼女が成長して、前を向いて歩いていることを俺は願う。いや、ケイトのことだ。きっとこれから、いい恋をする。 「今更も何もない。それだったら、俺たちも謝らなきゃいけないだろ? ずっと、今まで勘違いして戦ってたんだ」 「そうだよ! この責任は、誰にもないよ。……もちろん、あなたにも」 ワコと二人で、頭を上げてくださいと言うと、彼ら綺羅星十字団はゆっくり頭(こうべ)を上げた。 「……そう言われると、とてもありがたいわ。……それから、」 「――話の腰を折るようで悪いが……俺たちは、今日をもって綺羅星十字団を解散するつもりだ」 俺は目を見開いた。傍らのワコに目をやると、彼女も驚いているようだった。 でも考えてみると、確かにカタシロの発言は道理に適っている。 覆すことのできない罪を犯したヘッドと、それに気付かなかった頭取をはじめとする綺羅星十字団のメンバーたち。ゼロ時間も崩壊し、本来の目的も果たされた。 しかしまあ、その目的というのも、半ばヘッドに騙されているようなものだったわけで。 「……そうだよなー。ま、これからはサイバディの秘密を守りつつ――ってことになるのか」 「これで……みんな、解放されたのかな……」 なんだかな、と頭を掻く俺と、ほっと息をつくワコ。 そんな俺たちを見て、頭取は表情を緩め、カタシロは肩をすくめた。 * またみんなでパーティでもしよう。ミセスワタナベ主催で。 なんてちゃっかり約束をとりつけて、俺たちは別れた。 『元』綺羅星十字団は、とりあえず『元』基地へ。 俺とワコは、スガタの家へ。 あいつらが帰ってくるとしたら、今はあそこしかないだろうから。 * そして、冒頭の言葉。 メイドさん二人は「「おかえりなさいませ、お二方!!」」と弾けるような笑顔で言ったあと、小走りで朝食や部屋の準備に向かい、この場にはいなかったが。 スガタとタクトは、お互いの肩を支えるように組んで屋敷に帰ってきて足を踏み入れるなり、すうっと空気を吸い込んだ。 「んー! やっぱいいな! 家ってのは!」 「……僕の家だけどな」 腕を解き、んーと伸びをするタクトを一瞥して、スガタは苦笑する。 そんなスガタの綺羅星十字団スタイルは変わっておらず、俺とワコは思わずぷっと笑いを漏らしてしまう。 タクトはもちろん私服である。 「……笑ってくれるな……。僕だって好きで着てるわけじゃ……」 胸がバン!と開いたスタイルの服を纏い頭を抱えるスガタは、本当に見物だった。 うん。いつも通りのスガタだ。 「……ていうかね……タクトくんはわかるんだけど、なんでスガタくんまでそんなにボロボロなの?」 二人そろって笑うまで、帰ってきたタクトとスガタを前にして本当にプンスカしていたワコは、疑問符を浮かべる。 「あ。それ俺も気になってた」 はいはーいと挙手をして、タクトを見ると、彼は「ん」と声を上げた。 「それはだね諸君! 宇宙からこっちに帰ってくるときにちょっとヘマして……」 「いやちょっとくらいじゃないと思うんだけど……。もうタウバーンも修理しなきゃやばいんじゃないのか……」 「や、それよりも修理とかできんの?」 「知らん」 「えースガタのケチー」 「……どこが?」 「「…………ぶっ……あははははっ!!!」」 ほんとに、いつも通りだ。 これだよ、これ。 俺が見たものは。俺たちが、見ていたものは。 「ちょ、ゆず?! ワコまでっ?!」 「それはそうとワコ……女の子が『ぶっ』なんて言っちゃいけないよ。ゆず、君も笑いすぎ」 「いやだって……、ね、ゆずくん」 「うんそうそう……、だよな、ワコ」 笑いが止まらなくて。 それはただ面白いからなのか、彼ら二人が帰ってきたことをようやく実感したことによる嬉し涙なのか。 俺にはよくわからなかった。でもわからなくてもいいよな。 ワコと目を合わせあって、また微笑む。 そんな俺たちに、タクトとスガタも顔を見合わせて心底不思議そうに首を傾げた。 太陽が、昇った朝の空。 二人が宇宙から見た空の美しさはどんなに綺麗だったのか知らないが、今、この新たな始まりの青空も、それに負けないくらい素晴らしいんじゃないかと思った。 * 以下はおまけ↓ * ――南十字島総合病院。 サカナちゃん「…………久しぶり」 ヘッド(入院中)「……久しぶり……って、サカナちゃん?!!」 * ――南十字学園。 ミズノ「やっほータクトくん!」 マリノ「こんにちは、みんな」 タクト「え、」 ゆず&タクト&スガタ&ワコ「「「「ええええーーーーっ!??」」」」 * ――おとな銀行大客船(パーティー)。 タクト&ジョージ&テツヤ「「「祭りだ祭りだーーーーっっ!!」」」 スガタ&ゆず「「……いや、パーティだろ」」 ワコ「……あはは」 ミセスワタナベ「まあ今日くらいは、ハメを外して楽しみましょうね」 シモーヌ&タカシ「「はい、奥さま!」」 ベニオ「私たちも楽しむわよーっっ!!」 オカモト先生「って言っても、もう楽しんでる人もいるけどね……」 ケイト「んぐんぐんぐ」 ルリ「い、委員長がやけ酒してる……」 サカナちゃん「パーティを楽しまないのなら、子守唄を歌ってあげましょうか……(←SQアンソロ参照)」 ヘッド(一時退院)「いやいやいや! サカナちゃん怖いからヤメテ!!」 タクト「てかどの面してここにいやがるクソ親父!!」 ヘッド「あのときはごめんねー」 ゆず&スガタ&ワコ「「「あのときってどのときだ!!?」」」 タクト「もっと誠心誠意込めて謝りやがれええええええ!!(襟首掴んでガクガク)」 ヘッド「じじぬって゛うああああ(死ぬってうああああ)!」 カタシロ「……もう少ししたらやめてやれよ」 そんな感じで後日は過ぎ、秋がやってきて日常が戻ってきた。 俺たちはまた、みんなで笑い合っている。 ( これから見るであろう素晴らしい空も、皆で笑い合うであろう新しい未来も、 ) ▼ ヘッドが忘却されていた件について、どうにか忘却されてない話()を練ろうと思ってたんですが結局無理でした……。詳しいあとがき 2011/4/4(2013/05/11up) ←back |