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さりげない気遣い
――新十郎が、推理を間違えた。

それは初めてのことで、律は目を見開いた。
しかしかといって、彼女はこの事態を予想していなかったわけではなかった。
最初から、この事件は新十郎を主観的にさせてしまうだろうと思っていたから。

「…………」

そして『日輪の会』の反対派が武力に訴え出ている現状。
事件発生時、白朗氏だけ動くことができたという状況。
前者では、ここまでひどい反対派がいるということは、初めに死んだ三人は、もしかすると『ヤラセ』であったのかもしれないと思わせ。
後者では、そんなふうに人々の反感を買っている会のトップは、本当に善人なのかと疑わせている。

確かに、これらは新十郎が犯人を『島田白朗』だと断定するには丁度良い材料だ。
だが、それだけである。
誰も『島田白朗』という人物を推し量れる他人などいない。
たとえ推し量れたとしても、それは真実か否か、判断できる人間もいるはずがない。
そんな状況で、何の根拠もない状況で、どうやって島田白朗が犯人だと決めつけることができる?


新十郎が島田白朗を指差し、犯人だと断言したのも同然の台詞を吐いたとき、律が彼の服の端を小さく引っ張ったことに気づいたものはいただろうか。
このとき記念館の外にいた因果と風守は、しかし気づいていた。
新十郎ただ一人、気づいていなかったわけだ。

律の小さな訴えに新十郎が気づかず、見事推理を外し、
その帰途にて梨江に頭を足蹴りされたのち。

ようやく帰りついた我が家で、律は一番長いソファに横になっている新十郎の頭の近くにしゃがみこむ。
しかし険しい表情で天井を見上げたまま、ずっと変わることのない新十郎にむっとしたので。

「じんじゅーろーのあほー」
「……っ?!いきなりなんだ!」

いつもの声音のまま罵倒すると、新十郎はソファからずり落ちそうになっていた。
おもしろい、と律は心の中で笑う。

「いまのしんじゅーろーをみてたら……なんか……むかついた」

そしてその新十郎の頬を掴み、みょーんと伸ばす。それから縮める。
何度か繰り返していると、新十郎の表情が崩れていった。
険呑さは消え、その代わりにそれは呆れの笑みとなる。

「しんじゅーろーだって……、じゅーぶん……おひとよしなのに……」

どうしてわからないの、
と律は悔しそうに、新十郎に聞きとれるか聞きとれないか、そのギリギリの声量で呟いた。
僅かに顔を顰めた律。
おそらく聞こえていなかったのだろう。
新十郎はただ口元を緩めて、人差し指で律の眉根をほぐしただけだった。
律はそんな新十郎を目の前にして、もう何を言っていいのかわからなくなった。
この人は、自分が『他人のために』命を削っているという自覚がないのだ。
『他人のために』命を削るということがわからないと言うのに、この人はそれを知らないまま、それでも自ら進んで命を投げ出しているのだ。
きっと知ったとしても、それは変わらない。
律はどうしようもない感情に駆られて、新十郎の首に腕を回して抱きつく。
新十郎は拒絶することなくそれに甘んじ、幾分か優しい手つきで、その頭を撫でた。

この一部始終を見ていた因果が嫉妬心から新十郎に腹を立て、横腹に強烈なタックルをかましたことは、仕方のないことであった。

( 因果ちゃんハイパーアターック!!! )

( ふぐおおおおおおっ!! )

( カンカンカン! 因果ちゃん勝利ー!! )

( ぱちぱちぱち )

( 因果……お前…… )

( 僕に嫉妬させた新十郎が悪いんだよ? 律は僕のなんだから )

( でも……いんが……ぼーりょくは、だめ )

( ええ…… )

( ふん。ざまあみろ )

( ……どっちもどっちですね )




▼ アニメのお話のワンシーン。
  わかりにくくてすみません……;;
  最後の辛辣な一言は、もちろん風守です(笑)
  なんだか初っ端からぐだぐだになってしまったUN-GO夢小説でした(←え
  2011/11/20(2013/01/10up)
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