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星に願えば叶うのか
シロとクロ、そしてネコを追う赤と青。
ただそれを客観的に眺めるだけの傍観者であれたなら、どれだけ幸せであっただろう。
吠舞羅はともかくとしても、自分にとって特に問題であったのはセプター4。そこには、幼馴染みの伏見猿比古がいるからだった。
彼のことは中学のころ親友であったらしい美咲よりも知っているつもりであるし、ずっと見てきた自信もあった。だからこそ彼の不安定な心が気がかりで。

――でも。

と杏樹は寮の一人部屋から夜空を見上げた。
静寂の中、丸い月が、白くぽっかりと黒い世界に浮かびあがっていた。

一方的に追われ続けるシロたちを放っておくこともできなかった。
彼らが追われるような悪人だとは、全く思えなかった。人殺しだとは、全く思えなかった。
だってシロの瞳は、どこまでも純粋さで輝いていて。それはネコも同じで。クロは少し違った色をしていたけれど、それでもそれは揺るぎない忠誠心の証で、到底『主』以外の人物の命令を聞きそうにはない。

思わず吠舞羅やセプター4に、あなたたちの目は節穴なのかと喰ってかかりそうになった。まっとうに主張しようと思った瞬間もあったけれど、こんな小娘一人が声を上げたところで、一体誰が信じるだろう。そこそこ交流のある美咲やアンナあたりは信じてくれるかもしれない。尊さんは人を見る目はあるけれど、事が事だからわからない。ただ確かにわかるのは――大多数は信じないということだ。


猿比古と幼馴染みだった分、彼が喧嘩をしてぼろぼろになって返ってくる姿を何度も見てきた。自分に力があったらと、望まない日もなかった。
誇るほど強くないのに、猿比古とシロ、どちらの側につくべきなのか悩んでいるということ自体、すでにおかしいことはもうわかっていることだった。だけれどここでけじめをつけていなければ、明日から彼らに会う顔がない。
件の事件の渦中人物に知り合いが多い分、巻き込まれることも必須で――というかもう巻き込まれている状況で。それなのに、どちらにもつけず八方美人のようなことをしたくなかった。

大きな月と夜空に散らばる星たちに願ったところで、一方に決められるわけでもなければ、まして両方をとることができるわけでもない。
しかしこうして夜の空を見上げ、他力本願もいいところに願ってしまうのは、人の性というものだろう。

――無性に、猿比古に会いたくなった。

実際、過保護な彼はよく電話やメールをしてくる。でも今は携帯端末の画面は真っ暗だ。こんな状況で彼に会えば、その優しさに甘えて心中を吐露してしまいそうになるから、敢えて電源を切っていた。
それももう数日前からのことになる。

そろそろ怒った猿比古が乗り込んできそうだと力なく苦笑った。
会ってはいけないのに、会いたい、とはどういう了見なのか。矛盾する感情を抱える己に、嫌気が差す。

どちらに転んでも誰かを傷つけてしまうこの状況を受け入れざるを得ないのだ。
誰一人として傷つけない道は、世間と同じで一つも存在しないのだから。
早く決めてしまわなければと焦る自分は、まるで嘘のように彼との逢瀬を望み続けていた。
相反する思いを持て余して、ずっとその姿のまま変わらない夜空をぼんやりと眺めやった。


▼ まず謝ります。当初は猿比古が登場する予定でしたが、全く登場しませんでしたごめんなさい!! もし期待してくださっていた方がいましたら、本当に申し訳ないです……。これから映画も公開されるようですし、またその機会にリベンジできたら……と思っています……。
  今回の作風については、しっとりとした感じを目指したつもりです。結局はシロ側を選ぶ夢主ですが、彼女は後悔しません。基本的にはSSSにもあるように、本来のノリはほのぼの・ギャグ寄り。ちなみにK夢は猿比古お相手で、このお話の時点では無自覚両片想いです。2013/06/21(2014/02/03up)
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