世迷い感情論
どこかの次元の魔女ではないが、この世に偶然などないというのが俺の持論である。
人生の出来事すべては、必ずどこかに通じている。
そう考えるようになったのは、俺に人のぬくもり教えてくれたあいつがこの世界を去って、もうずいぶんと経ってからであった。

あいつ――アヤノがいなくなって、やがてメカクシ団に入った俺は晴れてニジオタコミュショーヒキニート生活を脱しようとしている。
それは同時に、彼女の死を受け入れるということで。
実を言うと、はじめ俺はそのことに抵抗した。
俺がアヤノの記憶を強く刻み、覚えていなければ、時の流れとともに彼女が消えてしまうと思ったからであった。いつまでも彼女とともにいたい。それはどこでもよかった。
ただ、その寂しい心を慰めるとき。いつも脳裏に黄昏色が過っていた。

……うん。話が長くなりそうなので割愛しよう。
そんなこんなで紆余曲折を経て、今ではアヤノの死を受け入れた。
つまり俺が言いたいのは、メカクシ団に入らなければ彼女の死を心が理解することはなかったし、人間的に成長することもなかったということだ。

はじめはなぜアヤノが死ななければならなかったのか、自分を悔いた時期もあった。
不謹慎かもしれないけれど、今だからこそ思えることがある。
彼女の死はとてもきれいで、意味のあるものだったのだと。
俺は彼女と出会わなければもともと死んでいたし、死んでいなくともいずれ引きこもりになっていただろう。そして、引きこもりになっていたとしても、必ずしもメカクシ団のメンバーと知り合い、自身を成長させることができたとは言えない。
なにも、メカクシ団との出会いだけが俺が成長するための機会ではないと言う奴もいるかもしれない。しかし俺には、それ以外で意地を張っていた頑固な自分を成長させ変えるものに出会えるとは思えなかった。


――それでもこの考えは、所詮彼女の死をなかったことにしたくない俺が生み出したものだ。


彼女の父親が聞けば、俺を殴りに来るほど、死に対する意味づけとして理解しがたいものだろう。しかしそう意味を見いだせなければ、俺はどうにかなっていたのは事実だ。おそらくずっと、前へ進めないままだっただろう。意気地なしの俺は、ずっと自分の殻に閉じこもったまま、この広い世界を見ていたのだろう。





「ねーえー、シンタロー」

メカクシ団総本部というのは、リーダーのキドも言っていたように簡素で陳腐な場所だった。これから何か大きなものに向かっていく集団の本拠地なのだとは、到底誰も想像がつかないはずだ。
俺は、食卓でマリーのいれてくれた紅茶を飲んでほっこりしている。
杏樹の入れた紅茶もうまいが、マリーのもなかなかである。

「シンタローってばー」

マリーに何か飲みますかと相変わらずおどおどした態度で尋ねられたとき。そういえば最近はコーヒーか炭酸ばかり飲んでいたからたまには違うものをと思い、紅茶をセレクトした瞬間、電子端末の中のエネに爆笑された。
かなり頭にキたが、まあそれは100歩譲ってこいつの通常運転だ。仕方ない。
……が。それほどまでに俺は紅茶が似合わない男なのか。

「シーンーターロー!」

「…………」

「シンタロー」

「……。なんだよさっきから!!」

ニジオタコミュショーヒキニートで、会話をするとすればエネだけだった俺の滑舌はこの一日で(俺の感覚では)ありえないほど多くの奴と知り合いになり会話を交わしたこともあってだいぶ回復していた。
そんな滑舌で、先ほどから名前を呼びまくっている隣の杏樹に荒々しい声を上げる。

「……なんだよ、って、さっきからずっと無言なのはそっちじゃない」

そうだったか、と首を傾げる。
「そうですよご主人!」と無駄に明るい声で杏樹に肯定するエネが耳障りで、また電源を切ってやろうかという思いが頭を過ぎる。

「てっきりわたしがメカクシ団のみんなのことを言わなかったことに怒ってるのかと……」

杏樹はどうやら、メカクシ団のメンバーと知り合いだったらしい。
ここ一年間くらいバイトが忙しいと言っていたのは、彼らとの逢瀬のためだった、と本人から聞いた。
結果論だが、確かに前から知り合いなら、それを教えてほしかったものだ。
例のデパート襲撃事件直後にぶったおれた後俺がメカクシ団本部(つまりはここ)で目覚めると、目の前で初対面同士のはずの杏樹とキド・カノ・マリーの三人が仲睦まじく話をする姿を見て顎が外れるくらい驚いた。しかし……まあ、

「いや、そうじゃあ……ない」

別に意図したわけではなかった。
ただなんとなく口数が少なくなっていただけで。

ゆっくり視線を逸らしながらそう返すと、杏樹はさして気にした様子もなく「ふうん」とハーブティーの注がれたカップに口をつけた。

俺はもともとよくしゃべる性質ではないわけで、杏樹といるとそれにさらに輪がかかる。決して悪い意味ではない。上手く言葉にはできないがおそらく、落ち着くからだろうと思っている。
こうしている感覚は、旧知旧友と共にいるそれと似ていた。
杏樹とはそこまで付き合いが長いわけではないのにも関わらず、まるで幼いころからの友人のように心を許せる。
不思議だ。

ぼんやりと考えていると、いつの間にかうるさいエネが静かになっていた。
ちらりと横を見やると、それに気づいた杏樹が俺を見て優しく微笑む。

――   。
フラッシュバック。
だめだ、
杏樹は、違う。

あの日最後に見た彼女の笑顔とオーバーラップして、思わず眉を顰めそうになった。

「シンタロー、」

杏樹が何かを察したように名前を呼んだ。

「ああ、大丈夫だ杏樹」

ありがとう、と一言付け足す。
杏樹は無愛想な俺の言葉にも「どういたしまして」と笑顔を浮かべてくれた。





とは返したものの。
たとえ彼女の死が必然であったとしても、やっぱり俺はそれを乗り越えられそうにないらしい。


▼ うっわあ……まじでよくわからない話ですよねごめんなさい……
  また修正しますね……
  ちなみに作中の『黄昏色』は杏樹のことです。
  そして時系列はデパート襲撃事件の直後
  2012/07/27(2012/12/25up)
戻る
[ 13/13 ]
| →
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -