No.9に君の目をください
「No.9に君の目をくれない?」





「……何だ? 新手の告白か?」

猫目野郎ことカノが目を覚ましたシンタローに開口一番そう言い頭を下げると、いまだ対人会話がままならないシンタローは舌滑悪くもそう返したように聞こえた。

おれの半歩後ろにいる杏樹は、いまにも笑いが吹き出しそうな顔をしていた。
必死に口元に手を添えて堪えているようだが、これはカノが次何かおかしなことでも言えばすぐにでも噴射しそうだった。
女の子なんだから、そんなあられのない顔をしないように願うばかりだ。

「うん。告白」

うぷぷとカノが性格の悪い笑みを浮かべる。
生憎、今まで他人との会話が皆無に等しかったシンタローには、その真意は伝わらない。
ただ気味の悪いものを見る表情で、起き上った体勢のまま少しだけ後退するのみだった。
カノは「反応が薄いのは心外だなあ」とまだにやにやと笑みを絶やさず、ずい、とシンタローに顔を寄せる。
もちろんそんな彼の頭をしばいたのはキドであった。

「からかいが過ぎるぞ、カノ」

痛いなあと後頭部を摩るカノの表情はしかしどことなく緩んでいる。
……この文面だけを見ると、カノという人物がただの変態のように思えるかもしれないので、カノのために弁明をしておく。
カノは単純にキドに構ってほしいだけなのである。たったそれだけだ。

――まあそれはそれで、性質の悪いものかもしれないが。

「すまないな、まだ目が覚めてばかりだというのに。うちの者が失礼した」

ただのお母さんであった。
今度はキドが頭を下げた。

一方のカノはそんな言葉もどこ吹く風で、別の方向を向いて口笛を吹いている。どこの子どもだ。
また、杏樹は吹き出すタイミングを見失ったらしく、常態に戻っていた。

「――杏樹、ユズ。二人ともキサラギ兄に説明を頼んだぞ。俺はこいつに焼きを入れてくる」

『焼き』と聞いた瞬間シンタローがおかしいくらいに青白い顔で過剰に肩を震わせたので、その無駄な臆病さに内心拍手を送る。杏樹はおれの背後で噎せていた。
そんなシンタローに気づいていないのか、気づいていてわざと放置しているのか、ともかく我が団長様は謝っている間に我関せずと何食わぬ顔でいたカノに報復を加えるため、その襟首を引っ掴んで別室へ連れて行った。

先程から困惑と疑念の視線を向けてくるシンタローと、改めて面と向かう。
やはりその肩はびくりと反応し、一体どこまで対人恐怖症なのだと溜息をつく。
実際はそうではないのかもしれないが、今のこの様子だと似たようなものである。

次に彼は杏樹を縋るように見やった。
噎せから復活した真面目モードの杏樹は、そんな彼を見てしょうがないなという雰囲気で苦笑した。

おれと杏樹でのシンタローの対応の差が、少し気に障らないでもなかった。
しかしおれの中ではそれよりも、どうして彼がこれほどまでに人と関わらなくなったのか、その理由が純粋に気になる感情が強かった。
おれはそのような込み入った内容を訊けるほど彼と気の知れた仲ではなかった。

それでも、心当たりがないわけではない。
シンタローは覚えているかどうか不明だが、おれと彼は一度会ったことがある。
そのときと現在の彼を比べてみて、異なる部分が一点だけあったのだ。
確証がないものを突き詰めることは無駄なのでやらない性質ではあるけれど、それは証拠もないのに妙に確信めいていた。

「あのね、シンタロー。落ち着いて聞いてね」

杏樹がかがんで、シンタローを見上げた。その真剣な表情に、彼の喉がごくりと動き、ぽたりと冷や汗が服の上に落ちて染みを作った。

「ここは、メカクシ団。ざっくり言い表すと、変人お人よし集団、かな」
「ざっくばらんすぎだろ」

おれが無表情でツッコミを入れると、シンタローがぎこちなく引きつったような笑みを浮かべた。
一応これで笑っているつもりらしい。杏樹は再び苦笑して、立ったままのおれを見上げるのであった。





――さあこれからが本番だ。


▼ タイトルはNO.10→NO.9に変更しています
  2013/06/14(2014/04/29up)
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