クズ人生から脱獄の合図
※小説三巻発売前に書いたので、内容に齟齬が生じていると思われます。
※それでもよろしい方はどうぞ!




























夏の日。
坂道の上で手を振り払って、「どっかへ行ってくれよ」と叫んだ俺に安心させるように「行かないよ。私はどこにも行かない」。そう微笑んだ彼女は、そう言ってくれた彼女が、誰よりも先に世界を絶った。

いっそ俺もあのとき死んでいたらよかったのだろうか。
そんな思いが過ぎるのは、もう一度や二度のことではない。
何度も同じ感情を繰り返して、相反する気持ちに幾度、幾度殺されてきたことか。
それでも俺はその度に、一番目に映る黄昏を目指して。
俺の未来をいつも照らしてくれるその光を道標として。

彼女の死を受け入れようと、自分自身に言い訳をしたところで、決して無理だと納得しつつある毎日を過ごしていた。惰性で生きる日常にも慣れていたけれど、そこにいくつもの非日常が投下されて彼女のことどころじゃなくなった自分がそこにいた。それにはたと気がついて、無性に激しい焦燥に駆られた。だめだ。だめだこのままじゃだめだ。このままじゃあ、俺は彼女を忘れてしまう。俺が本当に大切な、大切な思いを寄せた彼女のことを、忘れてしまう。
そこに根拠はなかった。ただ俺はわけのわからない化け物に恐怖したガキだった。

あの日から、もうどれくらい経ったろう。

理由がないことを理由にして怯えるしか脳のなかった俺にいち早く気づいたのもあの黄昏色で。
諭してくれてもはじめは一方的に耳を塞いで、一向に話をきこうともしない俺に二の足を踏んだ回数は数え切れない程のはずだ。けれどずっと、諦めることなく俺の心に訴えかけてくれた黄昏がいたから、今の俺がある。

黒いセーラー服を見る度。
学校という建物を見る度。
真っ赤なマフラーを見る度。
黒く長い髪の少女を見る度。
茜に染まった夕暮れを見る度。

思い出さない日は、正直今でもない。

彼女と同じ赤い瞳を閉じると、もう今じゃ見たくもない夕暮れの教室。
柔らかな風に煽られて、カーテンが音もなく揺れた。
瞬きをすればそこには以前と変わらぬ優しい笑みを浮かべた彼女がいた。


――それでも。

「死んじゃった、ごめんね」

――楯山アヤノ。
もう二度と会うことはない、俺の一番の理解者。

「……、知ってる」

笑えていただろうか。
笑えていたらいい。

「ばいばい、シンタローくん」

死んだ記憶に、過去の思い出にしがみついている日々とはもうおさらばだ。

「……じゃあ、な」

――ああ、アヤノが笑ってくれた。
笑ってくれた。
それだけで俺は十分だ。





目の前で。真っ黒なコノハが、その頭に銃口を突きつけた。

――彼女の後を追おうとした過去があった。
自身の首に刃先の長いハサミを向けた。

そんな昔の自らがフラッシュバックするのは言わずもがな。

もう俺は嫌だった。
俺の前で人が死ぬことには、耐え切れなかった。
誰も失いたくない。二度も失ってたまるかよ。

俺は心の中で苦笑した。これ、ほとんど本能的なんだけど。ほんと笑えるよなあ。
そんなふうに考えてる内にも俺は駆け出して、


▼ もうシンタローは大丈夫です。
  一応これでシンタローのアヤノ談義は最後にするつもり。ロスタイムメモリーをききながら。ちなみに作中でしばしば出てくる『黄昏』は杏樹のつもりです。
 2013/04/04(2013/06/14up)
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