目指すは云万光年遥か
早朝のニュースにて、今日は流星群が見えるということだったので、メカクシ団にやってきた。メカクシ団本部は真四角で、周囲の建物より幾分か背は低かったが、屋根が平らなため寝そべって星を眺めるのには丁度よいと思ったからであった。
本格的な夏を予感させる暑苦しい夜の道を、街灯便りに歩く。暗闇の中、ゆっくりと近づいていくにつれて、メカクシ団本部はぼうっと白く浮き上がっていった。やがてその輪郭が確かなものになったとき、『107』と書かれた門戸の影に誰かが佇んでいるのが見えた。敷地内にいるのだからメカクシ団メンバーであろうが、こんな時間に一体誰なのだろう。首を傾げつつも歩みは止めず、杏樹はやがてその扉の前に立った。

「……セト?」

正体不明の人物の位置は、街灯を避けるように夜の闇に溶け込んでいたので、こうしてすぐ近くに来るまで誰だかわからなかった。
夜闇といえば一瞬でカノが浮かび、てっきりその予想が当たっているとばかり思っていたから、杏樹は少し驚いた。

「あ! 杏樹っすか?! こんばんはっす!」

にかっと白い歯を見せて笑うセトは、影の中でも眩しい。
正体がわかったのはいいが、一体全体どうして彼はこんなところにいるのだろう。それが顔に出ていたのだろう、セトは苦笑気味に続けた。

「俺さっきバイトから帰ってきたんすけど、キドから、杏樹が流星群を見に来るってきいたんで」

つまりは一緒に星を見たいということだろうか。でもなんでわざわざ外で待つ必要があるのか。メカクシ団本部の屋根には、二階の部屋の天井についている窓から登ることができるのに。ますます不思議に思い始めた杏樹だったが、大人しくセトの言葉の続きを待った。

「だから、一緒に流星群見に行かないっすか。穴場があるんすよ!」

ガチャリと門戸を開けて、後ろ手に鍵を閉めたかと思うと、軽やかな動作で杏樹の手を取り引っ張る。
なぜ自分とだけなのかとか、だったらキドやマリー、カノ、ユズが可哀そうではないのか、とか。そんな疑問は、手加減もせずぐいぐいと手を引かれる状態では、足をもつれさせないよう追いつくのが精一杯で考えることすらできなかった。





裏道を駆使して辿り着いたのは、メカクシ団本部から徒歩二十分の位置にある丘の上。
とは言っても、林の中少しだけ整備された遊歩道を登った先の開けた場所ってだけなんだけど。
一体どんな道順で到着したのか、セトと共にやってきた自分でも覚えていないくらいなので、余程な穴場だと思われた。

「息上がってるっすね、大丈夫っすか?」

セトが膝に手をついてぜえはあと肩で息をする杏樹を覗き込む。

「まあ……そりゃあ、大分、歩いてるし、」

案外ハイペースだったし、と視線を泳がせて小さく付け足すと、セトはそれを漏れなくききつけて、「うわ、そうだったんすか?! もー杏樹が何も言ってこないからこのペースで大丈夫なのかと思ったっす……」としょんぼりした顔つきになった。まさか聞き取るとは思ってなかったので慌てて「いや別に口にしなかったわたしも悪いし、セトが気にすることないよ!!」と声を上げる。
するとセトは「じゃあお互いさまっすね!」と少しだけはにかんだ。
常識人率の低いメカクシ団の中での数少ない『まともな人』であるセトは、普段とても頼りがいがある人物だ。でもこんなふうに笑っているときは、歳相応なんだよなあとしみじみと思う。

「じゃ、さっそく流星群見るっす!」

セトはツナギのポケットから小さく折りたたんでいたレジャーシートを取り出す。
それを二人で地面に広げながら、そういえばセトって星に興味あったっけという疑問が頭の中に浮かんだので何気なく尋ねてみた。
セトはさっそく仰向けに寝転んで「んー……いや、ただ俺って職業上夜も出歩くこと多いじゃないっすか」とその深いはしばみ色の瞳をこちらに向けた。

「それでふとした瞬間に夜空を眺めていたら、だんだんと興味を惹かれるようになったんす」

そしてセトが、ほら杏樹も早く、と急かすので並んでシートの上に仰向けになる。

「へえ……、じゃあ星座とかもわかるの?」

「ある程度は……ってとこすかね」

もともと杏樹も天文学系には大いに関心があり、独学で少し齧っていたことも幸いしてそこから次から次へと星座談義に花開いていった。
もちろん、頭上を流れてゆく星々に願いを込めることも忘れずに。
お互い目まぐるしい生活を送っている分、ゆっくりと過ぎる時をいっぱいに惜しんだ。そんな、夜。


▼ セトが杏樹を流星観測に誘ったのは、男はもとより論外(←ひどい)でキドは恐がりだし、マリーもまだ暗いところを歩かせるのは危ない。そして杏樹が星に興味があるということをもともと知っていたという二つの理由からです。
  2013/04/04(2013/06/14up)
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