やさしいだけでは生きていけない
※過去捏造してます
※男主視点です










































何度も世界を繰り返した。
それも、気の狂いそうになるほど。

たった一人の少女によって引き起こされたその現象に、しかしおれは巻き込まれたことによる怒りの感情すら浮かばなかったのを覚えている。もう遠い昔のことだ。

彼女の人柄は十分わかっていたから、その気持ちも十二分に理解できたのだ。
しかし彼女自身が、ループする世界を覚えているのかは定かではなく、また、それを軽々しく口にすれば取り返しのつかないことになる。
そのため一度として言葉にすることはなかった。


この世界は、ひどく幸せな場所だった。
今まで体験したどの世界よりも、幸福に満ちている気がした。

死を避けられない人物――アヤノやその母、マリーの母親は亡くなってしまっていたようだが、それでもそれ以上死者が増えることはなかった。

シンタローはエネを殺して自殺することがなかったし、カノは自らを騙し続ける罪悪に押しつぶされて姿を消すこともなかった。セトはそれに責任を感じてメカクシ団を脱退することはなかったし、キドは孤独に壊されることもなかった。
ヒビヤはヒヨリを助け出すことに躍起になって、たった一人で体をぼろぼろにすることもなかったし、モモもアイドルをやめることをしなかった。コノハも、学生時代『死んだまま』になることもなかった。

幾度となく繰り返し、そうして巡り合えた、望み通りの最高の世界。
おそらくその事実は、おれしか覚えていないのだろう。
きっとあの様子だと、マリーさえも覚えていないのだろう。
これほど孤独なことはなかった。

ただ、何度も同じ時を過ごすうちに、孤独をはじめとする感情を忘れてしまった。
どこか遠い場所に置いてきたかのように、歪な表情しか作れなくなった。
それもこれも、彼女のせいだと責めているわけではない。
全て自分の責任であるし、正直後悔はしていない。


――しかし。

これまでは確かにそうであったのだ。
波崎杏樹という黄昏色の少女に出会うまでは。

もう何度目かも覚えていないこの世界で、初めて杏樹と出会った。

体験した記憶のない映像が脳内を駆け巡るようになった。
それは今までのこの世界での記憶と混ざり合って、不快な和音を立てた。
眉根を寄せてそれに耐えるとき、決まって杏樹は心配そうに声をかけた。

感情の抑揚が小さくなったおれは、その代わりなのか他人の感情がその雰囲気や表情である程度察することができるようになっていた。
他人を無条件に信じることはできないし、逆に問答無用で疑ってかかることはしない人間だけれど、杏樹の言葉や表情は一心に信じた。どれも本物だったのだ。

それに気付いたときは本当に驚いた。
こんなにも正直な人間が、この世界にはやってきたのだと。
杏樹がいるなら、この世界も来るべき『ハッピーエンド』に向かって走ることができるのではないかと。確証もなく直感してしまうほどに。

表情豊かな杏樹と接していると、感情を失くす前の自らを見ているようで、ひどく羨ましかった。
それはおれが現在モモに抱く羨望に似ているようで、似ていなかった。
そして同時に初めて、激しく後悔したのだ。
おれはこの繰り返す世界の記憶を持ち続けていることを、どうしようもなく悔やんだ。
どうやったって変えられない事実であっても、後悔することをやめられなかった。


けれどそうやって後悔に駆られるとともに、記憶をずっと抱えているのが自分でよかったと思った。
こんな数々の思いを抱くのが、杏樹をはじめとする仲間たちではなくてよかったと、心の底から安堵した。
綺麗な感情を持つ人には、ありのままでいてほしい。
せめておれのようなしがらみを持たないままで、ただ笑っていてほしい。

この世界が結局どうなろうとも、おれはその記憶を持ったまま、振り出しに戻った世界で何食わぬ表情をして過ごしていくのだろう。
後悔が消えたわけではもちろんないけれど、それがおれに課せられた罰であり宿命であるなら、きっとおれは受け入れる。

今がどれだけ幸せで、もう二度と繰り返したくないと懇願しても。
人は、そんな優しい願いだけでは生きていけないのだから。


▼ 男主の独白だけですみませんでした……。
  この話は数多く繰り返してきたパラレルワールドではなく、すべての決着が着く小説時間軸の世界のお話です。
  2013/06/20(2014/10/27up)
戻る
[ 2/13 ]
|
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -