黒バス→青い春 | ナノ
空腹と夜風
ある日の夜。俺はお腹がすいたのでマジバに行った。
そしたら、なんか人目をはばからず喧嘩を展開する青と赤がいた。





なんで他校のおめーがここにいるんだよ。
という純粋な疑問が浮かぶよりも先に、

はあ、と一つため息が出た。

こんなカウンター前で口論なんてされたら、店側もたまらないだろう。
店員のお姉さんは、おろおろとした様子で今にも泣きそうだ。
大学生だろうか。なんとなくそれらしい雰囲気である。
栗色の長い髪を頭の後ろで括って、バレッタかなんかで留めている。ぱっちりした目も、桜色のふっくらした唇も、しかしそれでいて化粧は濃くない。色も白いし、肌もきめ細か。体型もごく標準的。……ってどこ見てるのかって? いや、だから見ての通り『可愛らしいお姉さん』に迷惑をかけている二人が許せないから、ね?

ここはマジバなんだからマジバーガー食うべきだろとか、
なに言ってんだ俺はマジバーガーチーズ食うべきだろとか、
はあてめえ頭腐ってんじゃねえのだとか、
ああん?それはこっちのセリフだコラだとか、
ものすごーーーーーーく低レベルな戦いを本気で繰り広げている両者――青峰と火神。
そんな二人の肩をぽんぽんと叩き、

「何喧嘩してんのか知らねえけど、ものすげえ邪魔」

そう、満面のにっこり笑顔をゆずは浮かべた。





「「すんませんでした!!」」

「わかればよろしい」


数分後。
ゆず、青峰、火神の三人は四人掛けの窓際の席に腰を下ろしていた。
本人達にとってはたいそう不本意なのだが、今現在青峰と火神は隣同士で座っている。
なぜなら、ゆずがそうさせたからだ。
いわゆるまあ、ペナルティの一種である。

ちなみに、机の上には三つ分のトレイと、それぞれに三人が注文したものたちが乗っていた。
ゆずは無難にマジバーガー1個にポテトMサイズ、爽健美茶Mサイズ(俗にいうマジバセット)。
青峰はマジバーガーチーズ2個にポテトMサイズ、ペプシLサイズ。
火神はもちろんマジバーガー20個とコーラLサイズである。

先程の騒動のあと、ゆずはその笑顔の圧力で二人の喧嘩を沈静化させ、さらには頭を下げて謝らせた。
店員のお姉さん――アルバイトだろう――は、大男の彼らに謝られたことによって逆に『なんか私もごめんなさい!!』とテンパっていたが。ふふ、またそこが可愛らしい。ちゃっかりアドレス交換しちゃった☆

「おーい、もどってこーい」

ゆずに顔を近づけて、青峰が両手で作ったメガホンを向けた。
直後「だまらっしゃい!」とすぐに鉄拳が飛びそれを叩き落とす。
その勢いのまま、あわや自分のバーガーたちを潰すところだった。青峰は「危なかった……」と胸を撫で下ろす。
ゆずはチッと舌打ちした。

「え、ちょ、ゆずキャラ変わってね?」

火神が思わず口に出すと、「いや? 全然。これっぽっちも?」と再びにっこり笑顔で答えられた。
こええええと今度は声に出ない悲鳴を上げつつ、火神はその恐怖を誤魔化すように、ゆずから目を逸らしてコーラを口に含んだ。


「……で」


それから数秒してゆずが言った。


「青峰くんはなんでこのマジバにいるのでしょうか。つーかなんでここにいるのでしょうか」

「オレの存在全否定!!」

「だってお前桐皇じゃん。おかしいじゃん」

ポテトを一つ指で摘んで、その先端を青峰に向けへろへろと動かす。

「しかも、こんな二十二時過ぎとか」

そして、ぱくりと口に入れて咀嚼した。
人差し指と親指の先についた少量の塩を、舌で舐め取る。

「……なんかえっろ」

「手の人差し指を月バスにぶつけて死ね」

「ちょっとリアルで怖いからやめ」

「じゃあ黙れエロ峰」

「…………」

うわほんと黙ったよこいつ。
ゆずは呆れた視線を寄越し、それからつと、その目を火神へとやった。
さっきから気にはなっていたのだ。
なんというか、自分と青峰を見やる火神のそれが。

「あー、なんだ、火神。どした?」

寂寥。
あとは、羨望。最後に、驚き。

その三つの感情が混ざった目をしていた。

「……なん、つーか、」

青峰はまだ黙って、むしゃむしゃとバーガーを食べていた。
変なとこで律儀な奴だな、と心の中で苦笑う。
見た目は不良っぽいのに。
そういう所、昔から変わんねえ。

火神が僅かに顔を顰めた。


「むかつく」


ゆずは目を見開いた。
まさか、まさかこの火神からそんな言葉が出るなんて。
いや、罵倒に対する驚きではない。
それがわかっているから、なおさら驚いたのだ。
そう、これは、おそらくその火神の言葉の原因は――

「嫉妬かよ。女々しいなおめー」

くつくつと青峰が笑った。
どうやらもう無言はやめたらしい。気が短いのも相変わらず。

「嫉妬、なのか」

火神はしかし、そんな青峰の挑発には乗らなかった。
否、気づいていなかった。
なぜなら、自分が今抱いている感情すら、わかっていなかったのだから。
ゆずは、どうしたらいいものか逡巡した。

俺は、火神のことが好きだ。
好きだ。
だから嫉妬されるということは、向こうも俺のことを好きということだ。
素直に、嬉しい。
嬉しいんだろう。
だけど、何か心の奥で黒いものが燻っている。
気づいてはならない、開けてはならない。そんな、パラドックスの含まれた箱のような何か。

――ああ、
どうせ、気づいてはならないのなら。
俺は、気づかないままを。開けないままを選ぶよ。


「はは、ありがとなー火神」


座っていても自分より幾分か高い位置にある火神の頭をわしゃわしゃと撫でた。
火神がやめろ、と口を開く前に、ゆずはその手を離す。
やっぱり彼の顔は真っ赤だった。
かわいいなあほんとに。

にこにこと笑みを浮かべる。
青峰は火神の隣で、つまらなさそうに二つ目のバーガーを食べていた。

「あと三十分だからな。それまでに帰らねえと、深夜徘徊になる」

ゆずはそれを見なかった振りをした。
見た、と意識してはいけない気がした。

「お、そうだな。急がねえと」
ゆずの言葉に火神がそう言って、まだほとんど手をつけていなかった二十個のバーガーに手を出した。





「――なあ、」

帰り際。
別れる際に、ぽつりと青峰が呟いた。

「俺がなんで、ここに来たのかわかるか」

性に合わず、真剣な顔。だったと思った。
でも、いつも通りのような感じでもあった。
どちらなのかわからなかったから、俺は、(後者だと受け取った。)

「ん、散歩じゃねえの?」

お前、そういうの好きだろ。
帝光のときもよく夜にしてたじゃん。

「……。そうだけどよ。ま、いいや」

俺は首を傾げたが、青峰は何が『ま、いいや』なのかは教えてくれなかった。
その代わりに青峰は、にやりと笑う。

じゃあなと踵を返したそいつに、俺はとっさに何かを言おうとして、しかし何を言っていいのかわからずに言葉が迷子になって。
ああ、青峰が行ってしまう。
メアドも知ってるし、家の場所も知ってる。だけど今、言わなきゃいけない言葉があった。

それは何か、なんだ、なんだ、


遠ざかる青峰の背中を、半歩踏み出したままただ見つめる。


ゆったりとした夜風が吹いた。
それは冷たく、冬の訪れを伝えていた。

実はウィンターカップのあの試合のあと、青峰に合うのはこれが初めてだった。
けれど、案外そういう話題には一切ならなかった。
意図したわけではないのに、だ。
だからこそ、青峰とは以前と変わらない距離で接することができた。
何も変わっていないと思ったけど、きっとどこか変わったのだろう。
火神や黒子と真正面からぶつかって、青峰の何かが、変わったのだろう。

でかく、なったな。

その背中を、見据えた。
帝光にいたときよりも、もっと、強く、大きくなった背中。

もう、大丈夫だろう。
もう、青峰は大丈夫だ。


「アホ峰!!」


俺は、叫んだ。


「また、一緒にバスケしよう!!」


叫んだ。


近所迷惑になる、なんてことが頭の中に浮かぶよりも先に。


青峰は、振り返らず。
頼もしい背を向けたまま。ただ右手を挙げて応えた。





「こういう関係っていいよな」

青峰の姿が、もう点になってしまったころ。
火神がぽつりと呟いた。
ゆずは、その遠くの背中をじっと見つめていた目を火神へと移す。

「つかず離れず、みたいな」

ちょっと違うかもしんねえけど

火神はうまく言葉が見つからないらしく、微妙な表情で頭を掻いた。
まあその気持ちはわからないでもない。
俺だって、青峰とはどんな関係なんだときかれれば、すぐには答えられないだろう。
ただの先輩後輩の関係ではないし、友人ってわけでもない。ましてや、恋人でもない。
強いて言うなら、ライバル。好敵手、だろうか。

だけどそれも少し違う気がした。

――だから。

火神の言葉にそうだなあと漏らす。

「俺もよくわかんないけど、そういうのは関係ないんじゃないのかなと思ったりして」

だから、自分とあいつを結ぶ関わりの名前は、必要ないんじゃないかと。
言い方がアレだけど、その関わりは名をつけることのできるような単純なものじゃない。もっと複雑で。
たまに面倒になるけどなんだかんだ言って断ち切れない、そんな奇妙な固い絆みたいなものではないだろうか。

「そういうもんか?」

「そういうもんです」

火神は「日本の人間関係って難しいな」と顔を顰める。
俺はそんな彼を見て笑った。

再び風が吹き、髪を撫でて過ぎ去った。
夜はまだまだ更けてゆく。


▼ 時系列的には、vs青峰戦第二回。火神&黒子が青峰にWCで勝ったあとの話!
  一人称と三人称がまざった書き方してますが、仕様です;;
  2012/05/14(2012/06/02up)
  title:jachin
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