学校から出て、俺たちが向かった場所は池袋駅だった。東京メトロ新木場行きに乗って、豊洲まで行く。電車の中、携帯の電波は悪くて使えないのでポケットの中にしまった。
「どんくらいで着くんだ?」
「豊洲までは約30分で着くよー」
暇だから夕飯どこで食べようかなーと考える。あ、自分だけで考えるよりも彼に聞くのが一番か。
「ねえシズちゃん、なんか食べたいものとかある?」
「え? いや、特にねえけど」
「じゃあ好きなもの」
「……プリン」
その答えに思わず吹く。だってシズちゃん、プリンじゃ夕飯にならないよ。どうしようかと考えて一つの案が浮かぶ。
「バイキングとかはどう?」
「あー、いいと思う。でも高くね?」
「俺が全部払うから大丈夫だよ」
「は!? なんでだよ。悪ぃよ」
「朝来てくれたお礼。遠慮すんだったら俺なにも食べないから」
「……いや、でも」
そんな彼に笑って「ね!」と言ってやれば言葉に詰まってなにも言ってこなかったから了承したということにしておこう。
それからしばらくガタン ガタンと揺れる電車の中で話していた。不思議と会話が途切れることはなくて、心地好かった。
「てかさー、新羅となに話してたか気になるんだけど」
「……ひみつ」
「えー! やだやだ知りたーい」
ふと先ほど気になったことを聞いても教えてくれなくて。シズちゃんと新羅で俺に言えないことってなんだろう。やっぱり気になる。
「なーんで教えてくれないの」
「秘密だから」
「そんな理由じゃ納得いきませーん。明確に答えてくださーい」
「……その喋り方ムカつくな。とりあえずだめなもんはだめ!」
「シズちゃんのケチー!」
痛んだ髪の毛をぐいぐい引っ張ってやれば観念したように両手を上げて口を開いた。
「あー! 分かった分かった! だから手、離せ!」
潔く離してやると彼は乱れた髪を整えながらギリギリ聞こえるような声でぽつりと言った。
「臨也のこと……話してたんだよ」
「え?」
それは予想外の答えで。新羅が相手だからどうせまた実験がなんたらとかそんなのだと思っていたら、
俺のこと?
彼は顔を逸らしていて、それでも真っ裸な耳は隠せていなくて、それを見た俺も何故だか顔が熱くなる。
「……へ、へー。そうなんだ」
笑ってやることも長々となにか言うこともできなくて、やっとの思いでそれだけ言う。
それからはお互い目も合わせられなくて、ぎこちないまま何分かして豊洲に着いた。
「……え、と。次は何に乗ればいいんだ」
気まずそうに声を掛けてくる彼に恥ずかしさが拭えず正面を向いたまま答える。
「新橋行きのゆりかもめに乗るんじゃなかったかな」
「ああ、そっか……」
「……」
「……」
「……シズちゃんのばか」
たまらずそう言うと隣から不機嫌そうな声が降ってきた。
「だってあそこであんなこと言うとか照れるに決まってんじゃん!」
「あ? あれはてめえが言えっつーから……こっちだって恥ずかしかったに決まってんだろ!」
そのやりとりに余計気恥ずかしくなってしまいまた黙り込む。ああもうなんなのこれ。変なの俺たち。
すぐに来たゆりかもめに乗ってからも何故か目が合わせられないまんま俺たちはお台場海浜公園へ向かった。
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