「はあ……最悪、びしょ濡れ」

雨は弱まるどころか強くなるばかりで、道は浅瀬と化していて足を動かす度にばしゃばしゃと音が立った。
シズちゃんの家に着いて、体を拭かずそのまま部屋の中に踏み込む。拭いてどうにかなるレベルじゃない。服が肌にはりついて気持ち悪い。


「臨也、お前とりあえず風呂入ってこい」

「え? いやいいよ。シズちゃんから入りな。ここシズちゃんの家なんだし」

「んな事どうでもいいんだよ。早く入れ。風邪引かれたら困る。場所は玄関の横だから」


「……分かったよ。じゃあ先に入る」

正直早く服を脱ぎたかったし、このままボタボタと部屋の地面を濡らしていくのも悪いから素直に入らせてもらうことにした。

「あ、ねえ、服どうしよ。なんか貸して」

「ああ……ってサイズでかくねえか?」

「いいよ別に」

勝手にタンスを漁り、適当な服を出して風呂場へ向かう。にしても……

「両親は? 仕事?」

「今旅行中なんだよ。弟も一緒」

「へー。なんでシズちゃんは行かなかったの?」

「勉強しろだって」

「弟さんは?」

「あいつは俺と違って頭いいから」

「じゃあ今シズちゃんは一人暮らし状態なんだ。いいじゃん自由でー。じゃ、風呂入ってくる」

なんだこのベタな状況は。

ああ気持ち悪い。早く風呂に入ってさっさと帰ってしまおう。あ、でも服シズちゃんのだからだぼだぼになっちゃう。てか雨もひどいままだし。あーどうしようかな。試行錯誤しながら風呂に向かい、濡れた服を脱ぐ。どうしようこれと指先でつまみ上げて、とりあえず置いとこう。とカゴの中に入れといた。

ザー。流れる湯を浴びながら思う。俺は、なにをしてんだと。
彼のことが好きだという演技をしている。だけど始めたばかりにも関わらずそれは解けてしまい素の俺になってしまう。彼には自分のペースを変えられる。うまくいかない。というか、早く彼を潰すためにも俺に心酔させなければならないのに。俺が流されてどうすんだ。

シャワーコックを捻って風呂場から上がるとカゴの中に入れておいた俺の服はなくて、微かに洗濯機が回る音がした。

ほら、こんなとこでも俺の心を揺るがす。なんでそんなに優しいんだ。


「シズちゃーん、上がったよ」

彼のいる部屋へと入ると、その彼は、ベッドの上に寝転がっていた。

「シズちゃん?」

反応がないことを不信に思い側に寄ると、穏やかに寝息を立てていた。

「……まじ?」

起こすべきか。俺はどうすればいいのか。

「シズちゃーん……」

一応肩を揺すってみた。けど反応はない。うーん、お疲れのご様子だし起こさない方がいいか。

そう至って彼の側を離れようとしたら何かに引っ張られた。

「……!?」

シズちゃんの手が、服の裾を掴んでいたのだ。
いつの間に。と少々驚くが、多分彼の馬鹿力だから離してくれることはなさそうだ。

諦めてギシリとベッドに腰掛ける。寝顔を見つめて、俺はとても穏やかな気持ちじゃいられなかった。







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