ガチャ

扉を開けても、いつもの姿はそこにはなかった。親は海外にいる。いつ帰ってくるかなんて知らない。妹たちは……
こんな事態になってもどこか客観的で冷静でいる自分が最悪最低な人間すぎて自分で自分を嫌いになった。


ドカッとソファーに座り込み、うなだれる。どうして、妹たちが。重い息を一つ吐き、瞼をおろして先ほどの出来事を思いだす。



「九瑠璃! 舞流っ…!」

知らない空間で知らない人間に囲まれている妹たちを見て不覚にも動揺してしまい、そんな俺の姿を見て男はニヤリと嬉しそうに笑った。

「手荒なことはしてねえから安心しな。こいつらはちゃんと可愛がってやってるからよ」

「ふざけてるね……。誘拐は立派な犯罪だよ」

「脅し要員が必要だと思ってな。ついさっき捕らえるように仲間に頼んどいたんだよ」

「君に仲間なんているの? 今は仕事もないくせに?」

「平和島静雄を潰すために配属された奴らだ」

「……一人の人間のために、随分ご大層なこと」

相手の規模は予想以上に大きいらしい。見せられた九瑠璃と舞流の周りには2、3人の男がいた。他に見張りや計画を立てたりする奴らがいるとして……合わせて軽く10人以上はいそうだ。

「三日だ」

「は?」

「三日以内に平和島静雄を潰せ」

「……その間妹たちはどうなんのかな」

「俺たちの所で面倒見といてやるよ」

「信用できない」

左手で首に添えてある手を掴んで、素早く右手で短ランの裾に潜ませていたナイフを出し相手の喉元に突き付けた。

「……平和島静雄を潰してくれれば、妹は解放してやる。ただし、こうして逆らうようなことをするなら、」

俺の抵抗など気にせず、ぐっと首に力を入れられ思わず低く呻く。

「妹たちもお前もただじゃ済まねえぞ」



そして、俺は明らかに不条理な条件を受け入れることになってしまった。

うなだれていた頭を持ち上げ、天井を仰いだところで顔を手で覆った。
平和島静雄を潰す。
……シズちゃんを潰す。
俺が、

普段の俺ならばこんなこと、悩むまでもない。話を持ち掛けられた時点で満面の笑みで受け入れて、三日などの猶予はいらずその日にでも実行していただろう。

「なんで……」

でも、なんで相手が彼だというだけでこんなにも戸惑っているのだろう。まだ今日初めて関わったような人間なのに、何なんだ俺。





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