「何? 君は俺をどうしたいわけ? ……いや、どうかしてやりたいのは彼にかな?」

壁に押し付けられ、身動きが取れなくされる。無駄に顔が近くて吐き気さえしてきた。

「前の件では、よくやってくれたなあ。ガキが」

「……覚えてないなあ」

いや、思い出した。こいつあれだ。前に俺に会社の上司の情報提供を以来してきた奴だ。
確か、上司を社会的に潰して自分がトップに立ちたいとかそんな理由だった。しかしその計画はうまく行かずに終わった。何故って? 俺が上司にその陰謀を伝えたからだ。その会社と俺は元々繋がっていて、上司とはよく情報交換をしていた。
そこで、部下の不穏な動きに気づいたのか、部下についての情報提供を求めてきた。金は上司の方が多かったしこれからの付き合いのことも考えて俺は快く全てを教えてやった。

そのことがどこからか漏れたのか、というか漏れるもなにも計画を知っていたのは俺だけだったから必然的に上司にチクったのは俺となるわけだ。
それで俺が恨まれるのは分かるがここで何故シズちゃん?

「お前のせいで散々な思いをしたぜ。ただな、こうしてもう一度お前のとこに来たのは偶然なんだ」

「……話が読めないな」

「俺は会社に戻れる方法がある。戻るどころか前の位置から昇任の兆しもある」

「それで、何で偶然会った俺をわざわざこんなところに引っ張ってそんな話をするのかな」

「平和島静雄を潰せ」

「……は?」

その言葉にほうけた顔をした。駄目だ全然分かんない。ここで彼が関わる要素がどこにあったというのだ。

「上司がよぉ、平和島静雄にボコボコにされたんだ」

「え? なんで?」

「会社で裏切り者が出て、重要資料を持って逃げようとした奴がいたんだ。そいつを追いつめて殴り倒してた時に平和島静雄が現れて上司に殴りかかったらしい」

……なるほど。推測するとこうだ。偶然会社のうやむや騒動をしているところに通りかかったシズちゃん。そして優しい彼は殴られてる奴を助けようとして理由もよく分からないまま一見悪人の上司を殴ったわけだ。

思わずはぁ、とため息が零れる。

「なんで俺に頼むの? 彼と一緒にいたから?」

「仲良いお前ならいろいろな方法で奴を潰すことができるだろ?」

「……実はそんなに仲良くないって言ったら?」

「取り入れよ。これはお前への逆襲も含まれてるんだ。ターゲットの平和島静雄とお前が揃ってるなんて、偶然に感謝しねえとな」

「言われて俺がはいやりますって答えると思う?」

「無理にでもやってもらうぜ」

そいつは片手で俺の首を絞めながらもう片方の手で携帯を取り出し、何やらし始めた。

「?」

首に添えられた手のせいで身じろぐことが出来ず黙ってその様子を見つめていると、男が携帯の画面を俺に突き出してきた。

「なっ……!」

そこには無垢な笑顔で知らない男たちに囲まれている、

「これでやってくれるよなあ?」

まだ幼い妹二人だった。







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