俺はそれからしばらく彼の頭を撫でていた。周りの人にかなり見られたが無視の方向でいった。
おもむろに彼が顔を覆っていた手を外し、俺の頭に移動させてきた。

「どうしたのシズちゃ……」

彼の顔を見上げると、とても穏やかな表情をしていて、俺の頭に乗せた手を動かした。先ほどから俺がしているように撫でてくれる。

「ありがと。臨也」

男同士が頭を撫で合って見つめ合っているなんて周りから見たらなんて不思議な場面なのだろう。というかそれよりも、俺もちょっと感動してしまった。だって、普通に、悪い意味でなく純粋にありがとうなんて言われたのは初めてだからだ。情報提供とか悪い奴らとつるんで言われた事は幾度もある。が、こんなにも、穏やかな表情をされ、こんなにも温かいありがとうは初めてだった。こんなこといつもなら鼻で笑ってやるところだが何故かそれが出来ず、よく分からないままその手から逃れるようにして踵を返し、彼に声を掛ける。

「マック行こ」

それから俺は一度も振り向かず、彼はまた数歩後ろからついて来ていた。
頭から彼の手の感触が離れなかった。



「コーラ一つと、シズちゃんは何がいい?」

「え? じゃあバニラシェイク」

マックに着いてオーダーをする。クーラーがついた店内は汗ばんだ肌を爽快にしてくれる。

「今ヨーグルトとかやってるけどそっちじゃなくていいの?」

「バニラがいい」

「あはっ! 分かった。バニラね」

見かけによらず、甘いものが好きなのかな? バニラを主張する彼が面白くてまた笑う。彼はホントに想像してた姿とは違う。だがそれが俺を楽しませてくれる。



店員から渡されたトレーを受けとって席を探す。端っこに二人用の席が空いていたのでそこにして、俺は迷わず椅子の方に座り、彼をソファーの方へ座るよう足すが遠慮して座ろうとしない。

「俺に気なんて遣わなくていいんだよ。シズちゃん」

「はは、それならお前も俺に気遣うなよ」

確かにその通りだとは思う。てか普段なら絶対にソファー側は譲らない。俺らしくないな。彼といるとなんだかペースが崩される。彼はそんなこと知らないだろうが。
潔くソファー席に座った彼にシェイクを差し出す。それを貰う彼の指と自分の指が触れ、思わずパッと放した。
一瞬ぴくりと反応した彼を見て俺は何事もないように世間話を引っ張り出して気を逸らすことにした。



数十分後、意外にも彼との会話は弾んでいた。力は常識の範囲を越えているがそれ以外の面は普通の人間と何ら変わりが無かった。このまま行けば彼と俺は、いい友達になるだろう。だが、やはり友達という単語への違和感は拭えない。



「そういえばさっき俺の分も金払ってくれたよな。今返すよ」
「ああ、いいって。これは一応お礼なんだしさ」

「ああ……そっか」

ちょっとばかし不服そうだがどうやら受け入れてくれたらしい。ちゃんとさっき言った通りに俺には気を遣わないことを意識したのかな? なんとなく気分が良くなってふふっと笑うと眉をひそめてなんだよと言ってくるからなんでもないと返してそれからも俺はずっとニコニコしていた。



「家どこだ? 送ってく」

帰り、マックから出たらそんなことを言われたのでポカンとしていると言葉を続けてきた。

「だってお前、また危ない奴らに狙われるかもしれねーだろ。朝の奴らがつけて来てたらどうすんだ」

「あはは心配してくれるんだ。生憎ああいう経験は多いから慣れてるしそれなりの対応の仕方も分かってるから平気だよ」

「……嘘つくな」

「は? 俺は事実を……」
「あいつらに囲まれてた時、お前、自分がどんな面してたと思う」

……。言葉に詰まった。そんな時の自分の顔なんて見たことないから答えられないだけだと信じたい。だが、彼の言おうとしてることが分かってしまうのは何故だろう。

「怯えてたじゃねーか」

怯えてるのは君の方だ。何に関しても、びくびくしてるじゃないか。そんな君に言われたくない。だけど、言われてようやく完全に自覚した。怯えているのだ俺は。トラウマがあるからかもしれないが、まさか人から見ても分かるほどに怯えていたなんて。

腕を引っ張られ、家はどこかと訊ねられたので一言、

「新宿……」

そう答えれば彼が軽く頷いて、駅方面へと歩き出した。

掴まれた腕が、新羅に触れられた時とは違い、熱を持っていた気がした。







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