「臨也! 君、授業初日からサボるとかどうしたんだい?」

一時限目終了のチャイムが鳴ったと同時に教室に入ってきた俺を見て新羅が声を掛けてきた。苦笑いをして窓際の自分の席に座る。俺は後ろから二番目の席で最後尾が新羅だ。身を乗り出して顔を覗き込んできたから俺は横座りになって話す。

「やだなあ新羅。俺がサボる訳ないだろ」

「その言葉は信憑性に欠けるね」

「誤解だ。中学の先輩に呼び出されてたんだよ」

「ああ成る程! あはは。君っていろんな人から恨み買ってるもんねえ」

満面の笑みで軽々しく言う友にイラッとしながらもほんの先程あった彼とのことを話す。

「静雄くんに会ったよ」

「静雄くん? どうして彼と……?」

「俺が襲われそーになったとこを助けてくれたの」

「臨也が襲われそうになった? それは信じ難いね」

「……お前さっきから失礼だな。まあ確かに俺一人でも平気だったけど」

他愛もない言い合いをしていたら急に新羅が俺の頬に両手を添えて、ぐりんと顔を向けさせられた。

「な……何?」

こいつは確かにおかしい奴だ。行動全てが突拍子もなくて言葉だって変な事ばかりで。だからこそ今度はなんだと怪訝に眉を寄せると新羅はニッコリと笑って

「静雄くんにお礼を言いに行かないとね!」

などということを言い出した。

もちろん俺は断った。確かに、彼に「ありがとう」とは言ってないが別にかしこまる必要もないんじゃないか? 嫌がる俺をよそに、さあ行くよ! と腕を引っ張られた。

「新羅! いいよ別に……やめようよ!」

半ば引きずられるようにして隣のクラスまで連れてかれてしまい、扉の前で踏ん張るがその抵抗も空しく、新羅が教室内に向かって静雄くーんと叫びやがった。

「あ?」

彼もすでに教室に戻っていたらしく窓際最後尾という新羅と同じポジションの席から立ち上がりこちらへ向かってきた。

「なんだよ新羅……あ」

新羅に隠れるようにしていた俺に気付いたらしくどうしたのかと俺と新羅を交互に見てくる。

「臨也が静雄くんにお礼を言いたいんだって」

「ちょっと待て新羅お前斬られたいの?」

何故まるで俺の意思で来たように言うんだ!睨みつけると軽くあしらわれた。

「あー……礼なんて別にいいのに」

静雄くんも静雄くんで真に受けてまた、照れ臭そうに頭を掻いていた。

はあ、とわざと大きく溜め息をついてその場から離れようとしたが新羅に掴まれたままの腕がそれを許さない。更に奴はとんでもないことを言った。

「臨也ツンデレだからさ、気にしないで。どうやら素直に礼を言えないから行動で示したいらしいね。今日の放課後一緒にファーストフードにでも行きなよ」

静雄くんと俺を見て、いい提案をしただろというような表情をしていた新羅をこんなにも殴りたいと思ったことはあるだろうか。

「まあ……ファーストフードくらいなら……」

静雄くんがそう言ったのを聞いて、ああもうこの展開を受け入れるしかないのかと微、諦め状態に入って渋々と頷いた。

帰りの学活が終わったら靴箱で。そう約束をしてその場は丸く収まった。もちろん俺は全然丸く収まってないが。

さて、何故彼と関わりを持ちたいと思っていた俺がこんなにも嫌がっているのか。それは、自分の考えた通りに進ませることは好きだが他人に自分の意思を無視されて何かしらされて変わってくのが嫌いだからだ。

とりあえずそう理論をこじつけて妙に長く感じる授業を受けるべく未だに俺の腕を掴んでいる新羅と一緒に教室へ戻った。







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