騒然と俺の目の前に現れたそいつは、キラキラと輝く金髪が印象的で、でもそれ以上に印象的だったのがその人間離れした力で。そいつは昨日、俺が興味を持ち始めた男、平和島静雄だった。

「……? どうした? どっか怪我でもしてんのか」

唖然として彼を見つめていた俺は、はっとなって即座に普段通りの笑顔を張りつける。

「いや、なんでもないよ。君のおかげで助かったよ」

「いや俺は、偶然通り掛かっただけだし……まあ無事で良かったな」

彼は照れ臭そうに頭を掻いてわざとぶっきらぼうに言う。それが面白くて、思わずくつくつと笑うと不機嫌そうな声を出して俺を睨んできた。

「ああごめんごめん。君って強いくせに変に純情っぽいなと思って。……いやしかしびっくりしたよ。人が飛んでんだからね。君のその力に新羅が興味を持つのも分かんない気はしないな」

「新羅……?お前あいつの知り合いなのか」

「ああ。同じ中学だった」

へー。と頷く姿を見ながら思った。これは彼に近づくチャンスではないのかと。さてどうしよと考え、まずは基本の挨拶から行こう。そう至って笑顔を崩さずに手を差し出した。

「俺は1年3組の折原臨也だよ。君は?」

すると彼は驚いたように目を丸くして、気まずそうに視線を逸らして手を握ってきた。

「お、俺は平和島静雄だ……お前、俺が怖くないのか……」

その言葉を言った彼の遠慮がちに握っていた手に少し力が篭った気がした。その手をちらりと見てから彼の顔を見たら、逸らされたその横顔はひどく怯えているようだった。

「……ほんっと君って以外だね。あんなに強いくせして気は小っちゃいみたいだし? 何をそんなに怯えてんだい。俺は、君を怖いだなんて思わなかった。むしろ……」

むしろ? 呆れたように笑いながら続けたその言葉の先がまるでポッカリと穴が空いたように浮かんでこない。どうしようもないので笑って適当に締めくくったら彼がゆっくりとこっちを向いて言った。

「……めずらしいな。俺の力見て離れないなんてよ。……よろしくな」

先程までの不安そうな表情は消え、穏やかに笑うその顔がなんとなくつまんなくて、そろそろこの場を去ろうかと考えた。彼との関係は築けたし、これからゆっくり蓄積していけばいいと思い、まるでゲームのミッションを達成した如く割り切る。手を放し、彼に背を向けると後ろから声が掛かった。

「折原……」

「臨也でいーよ」

振り向かずに答え、もう終わりに近い一時限目の授業に向かうのも億劫なので屋上目掛けて歩を進める。

ああ、彼は予想以上に面白そうだ。スキップをするように去って行った俺にポツンと残された彼はしばらくその場に立ち尽くして自分の手を見つめていたという。







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