入学式が終わり、帰り道。新羅にあの男のことを聞いた。彼の名は平和島静雄というらしい。なんでも超怪力で力の制御というものがなく、それ故に今まで良い思いをした事はないに等しいらしい。ふーん、と相槌を打ちながら聞きつつ頭の中で考えを巡らせる。
新羅は彼の異例な体に興味を持っているらしいが俺は違った。俺は、彼のそれが原因となった苦痛の過去の方に興味を持った。
「……静雄くんの事が気になるのは別にいいけど、彼は臨也の思い通りにはいかないと思うよ?」
一通りの話を終えた新羅がそう付け加える。俺は思わず、ポカン。としてしまった。まず思い通りにいくとかいかないとか考えてなかった。ただ興味を持っていたのだ。彼に。
「ふーん。まあ、それは俺に掛かればどうにかなっちゃうとしてー、彼……えーと静雄くんだっけ?4組だよね。うーん3組の俺らはそれなに関わりはあるけどなー……」
「静雄と友達になりたいのかい?」
「……は、あはははは! 新羅サイコーなんで静雄くんと、俺が? 友達? あははははははは!!」
狂ったように笑う俺の隣で新羅は軽く溜息をついていた。
「また、人間観察?」
「んー……それはちょっと違うかなあ」
顎に手を当てて考える素振りをする。楽しくて楽しくて、新羅の方に笑顔を向けて答えた。
「なんだろうね! 分かんないや!」
これ以上ないほど清々しい顔している俺を見て新羅はまた一つ、溜息をついた。
次の日、学校に登校するなり俺は先輩とやらに呼び出された。しかも校舎裏というよくあるパターンだ。
「……えーと、確か先輩方とは中学同じでしたよねー。でもそれ以外の関係性は見つからないんだけどなあー」
やや間延びした喋りで言うと5、6人位いるそいつらはピーピーあれやこれや騒ぎ出した。まあ、まとめればこうだ「中学の頃てめえのせいで散々な思いをした。高校では思い通りにいかせねえ。今のうちに潰す」らしい。
ああ、中学の頃は俺もやんちゃやってたからなー。面白そうな情報が入ったら先生に報告して退学処分とか停学とかに追い込んだり。でもそれらは全部俺が直接手を下した訳ではない。だけど元を辿れば折原臨也と言う名は有名だったから狙われる事は多々あった。
「折原あ! お前が全部悪いんだからな。覚悟しろよ」
そうして手にしていたバットを振り上げてきた。ああ面倒臭い。今までやってきたように袖からナイフを出し丸々空いた腹を切り付けてやろうとした時だった。
「てめえら、何してんだ」
とても不機嫌そうな声音が奴らの背後から聞こえた。なんだ? と、俺含め先輩共は固まった。ちょっと……部外者は下がっててほしいな。ややこしくなる…………え?ちょっと待って。
「うっうわああああー!!」
人が、
「うおっ! なんだこいつ!」
人が、飛んでる。
俺の目の前にいた奴がそいつに肩を叩かれぎこちなく振り向く。そして、ボカンと顔を一発殴られ撃沈した。そいつが崩れ落ちて、先程まで人を飛ばしまくってた張本人の姿が自然と目に映った。
「あ……」
「大丈夫か」
平和島静雄だ。
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