あれもこれもそれもなにもかもぜんぶしたいことばかりで、自分がなにから始めればいいかわからなかった。どれも楽しいことで、たくさんの玩具の中からどれにしようか選ぶのに迷う。でもけっきょくその時の気分で変わるもので、あとから思えばなんであんなものを選んだんだろう、とかその時は楽しくなくても後からあんな楽しい物は二度と出会わない、とか思うこともある。
 だから一日でも暇な時間を作りたくない。やりたいことで溢れているいま、楽しいこともつまんないことも全部思い出になってこのさき年老いて思うように行動できなくなって、その時に昔にたくさん動いておいて良かった。って思えるようにしておきたい。つまり後悔のない人生にしたい。
「でもひとつだけ後悔するかも」
「なにボソボソ言ってんだよいざやァ!」
 気温三十三度。太陽が地面をじりじりと焦がす池袋。そして目の前の男。俺達はなにも変わらない。何一つ変わらない。どんどん失っていく玩具がある中でもこの玩具だけは唯一なくならない。これが、楽しいものだったら嬉しいけど全然楽しくない。むしろ捨てたいくらいなのに捨てられない。捨ててもあっちから勝手に来る。どんなに遊んでも遊んでも飽きずに来る。
 進化も退化もない関係に俺は絶対後悔する。なんであの時もっとああしなかったんだろうとかいろいろ考えるにちがいない。だって俺はシズちゃんと、
「ねえ暑くない? よくこんな中で俺のこと追いかける気になるよね!」
「手前がいなくなれば暑さも気にせず快適に過ごせるようになる気がする!!」
「意味わかんない」
 なんで、どうして俺達はこんなに変わらないんだろう。シズちゃんとは喧嘩する意外になんの関わりを持つこともないのかな。そのわりに離れることもないからほんと、厄介だよね。変わらない玩具なら早く壊れてほしい。
「おい! 待て臨也」
 なんだか今日は考えすぎだ。喧嘩する気にならないから踵を返して走ることにした。後ろからはシズちゃんが声を上げて追いかけてくる。なんだよなんだよなんなんだよ。
 俺の人生のたった一つだけの後悔。もうきっと、大人になった今ではどうしようもない。時が経ちすぎた。それにこんなの恥ずかしいし情けないし、らしくない。
「おい逃げんな!」
「うるさーい! 暑いし追いかけてくんな!」
「うるせえ! いいから止まれ!」
「やだ!」
 ほんと、なんなの。暑いから、疲れるから。もう突っ掛かるな! と、思っていたところでガシッと腕を掴まれた。
「やめて好きだから!」
「はあ!?」
 ギャー、と俺が叫んだことに驚いたシズちゃんが手の力を緩めた。その一瞬の隙にシズちゃんを力一杯突き放して再び走り出す。
 ちくしょう、なになになんなの。あれは、ずっと変わることのない玩具で、唯一なくならない玩具で俺の人生の後悔なのに、
 ちくしょう、暑さのせいだ。暑さのせいで、変わるはずのないことを変えてしまった。人間って、一瞬で世界を変えてしまうから自分に驚くしかない。でも俺は、最後にチラリと見たシズちゃんの顔が少し笑顔だったことに期待せずにはいられなかった。







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