なんでこんなことになったのか、ここまでの展開が急すぎてよくわからねえ。
 ただ、俺の上で情けない顔してる臨也を見るのは、悪い気分じゃなかった。



「はっ……はは、シズちゃん、腰、もっと動かしていいんだよ」
「うるせっ……くそ、」

 勝手に人のモン出して、くわえてきたこいつは、そんなことをしながらもカチャカチャ急くような音を立ててズボンを脱いでいた。
 頭を動かされる度に聞こえるじゅぷじゅぷした音とは別に、もっと下のほうから別の音が聞こえて、視線を下げるとそこには腰を高く上げて自分のケツに自分の指を入れてる臨也の姿があった。もう片方の手では俺の性器を握って、先端は臨也の口がくわえていて、その光景にズクリと腹の辺りが重くなる。
「……あっは、おっきくなったね……いいよ、もっと気持ち良くなって……ん、」
「っ……て、めえ、なんのつもりだ」
「なんのつもりも、どうせ死ぬんだし、さ。気持ち良くなろうよ」
 臨也の言ってることがわからねえ。だからなんでお前まで死ぬんだって話だし、死ぬから気持ち良くなろうって理論がどうも理解できない。こいつの頭の中が、全然読めねえ。――けど、自分の思考がだんだんぼやけてきてるのは事実で、なんで男ってのはどうしようもなく快楽に正直なのかと思う。
 臨也の口淫は下手だ。比べれるような経験があるわけじゃないけど、たどたどしい舌の動きに、緊張した様子。呼吸をするために何度も何度も口を離す姿を見れば、ああ、経験ないんだなってことくらい、簡単にわかった。
「ふっ……ん、そろそろ、いい、かな」
 それでも触れられれば反応するものだし、もっと先を求めるものだ。臨也が起き上がって俺の腹に乗っかってきても罵倒一つ浴びせることすらできなかった。毒のせいか相変わらず指一本動かねえし、それを理由に抵抗だってしなかった。
「挿れる……よ?」
「っ…………」
 ずぷ、鈍い音を立てて、臨也の中に性器が埋め込まれていく。俺の腹に手をついて恐る恐るゆっくりと腰を下ろす姿はやっぱり慣れてない。だからこそ、そそるものがあった。大嫌いな奴に対してこんな思考をもってる自分が気持ち悪い。
 ――でも、いいんだ。そうだ、どうせ死ぬんだ。
 頭も感覚も麻痺してきて、俺は臨也の顔をじっと眺めた。初めてかもしれない。憎しみ以外でこいつの顔を見るのは。痛みと快楽に歪む顔は、見ていて悪い気分じゃなかった。
 気付けば、臨也の腰を掴んでめちゃくちゃに揺さぶっていた。毒のせいで、指一本動かなかったはずなのに。
「うぁっああ、やっ……なんで」
「うっ……知ら、ね……」
「はっ……さすが、化け物、だね……ああっ! ん、いいよ、もっと、腰動かして……」
 俺の動きに合わせるようにして臨也も腰を揺らす。きゅうきゅう締め付けてくる中が、やばいほど気持ちいい。こいつが臨也とかこれはおかしいことだとか、もうどうでもいい。貪るように、ただただ腰を動かした。
 ――そして、冒頭に到るわけだ。
 臨也の性器はもう限界と言わんばかりに、腹につきそうなほど勃ち上がって、先走りをだらだら垂らしていた。俺も、中の狭さに限界を感じて出る直前だった。ガツガツ腰を揺らせばしこりのようなものにあたって、その瞬間臨也は今までと全く違う反応を見せた。
「あっ! ああぁっ……そっそこ、だめ!」
「あ……?」
 ついに腕から力が抜けたのか、バタリと倒れてきて、服にしがみついてきた。なるほど、聞いたことだけある。これが前立腺ってやつか。
 集中的にそこばかりを突いてやるともはや喘ぎにもなってない、息の詰まった声を出してボロボロ泣き出しやがった。……やべえ。楽しい。臨也が俺に縋りついて、泣いてる。なんだこれ、やべえ。
「うぇっ……ひっ、ズちゃ……やめ、あっ」
「気持ち、いいんだろ……!」
「あぁっ」
 ぐっと腰を突き出す。腹の間では臨也の性器が擦れていて、たまらないというように涙をどんどん流していた。そのまま何度か往復を繰り返していると、びくんっと体を麻痺させた臨也が、くたりと全体重を俺に預けてきた。臨也が麻痺したのとほぼ同時に中に精液を出して、俺もぐったり地面に全身を預けた。
「はっ……臨、也」
「ん……ふふ、は、は」
「……あ?」
「あは、はは、シズちゃん……あはは」
「おい、何、笑ってんだよ」
 気失ってんのかと思えば、いきなり笑い出して、のろのろ体を起こしやがった。自分から腰を上げて中のものをずるりと抜くと、次いで溢れてくる精液も気にせず下着とズボンを穿きだした。
「……動けんのかよ」
「あっは……ちょっと、疲れちゃったけど」
 俺も起き上がって乱れた服を直す。携帯を開いて時間を確認すると、臨也を追い掛けてから二時間が経っていた。ということは、俺はあと二時間。臨也は、もう、
「毒にやられたのか」
「ああ……俺、もう死んじゃうね。でも、ね、シズちゃん。君は死なないよ」
「…………あ?」
 何言ってんだ。俯いてる臨也の顔を覗くように、座ったまま立ってる臨也の顔を見た。気持ち悪い笑みを、浮かべていた。
「間違えちゃったよ。シズちゃんに飲ませたのはただの痺れ薬で、俺が飲んだのは正真正銘の毒薬」
「な、……は?」
 やっぱり、意味がわからず言葉も上手く出てこない。戸惑う俺に、臨也はしゃがみ込んで向かい合うと胸倉を掴んで引っ張り寄せてきやがった。そして、額にキスをしてきた。
「おめでとう。これからも生きられるね。それにしても、どう? もうそろそろ死ぬ人間を抱いた気分は?」
「……ふざけんな」
「セックスなんてねぇ、愛がなくてもできちゃうんだよ。でもね、どうしたって、心には残っちゃうものでしょ」
「……! 手前……まさかわざと」
「シズちゃんは、一生忘れられないね。死ぬ直前の人間とセックスしたなんて。あっは、俺が、君を簡単に殺すと思う? 楽になんて、してあげないよ。君には、生き地獄を味わってもらわないとね」
「ふざけんなよ……俺が自殺したら」
「それはないね。シズちゃんは命を粗末にするような人間じゃないって俺が知ってる」
 臨也は、なんでそこまで俺が嫌いなのか、そもそもなんで俺も臨也が嫌いなのか、ごちゃごちゃしてなんもわかんねえ。臨也の言った通り、俺は自殺するつもりなんてない。――だからって、生き地獄を一人で感じるつもりも、ねえ。
「っわ!」
「臨也くんよぉ……つまり、胃ごと取っちまえば、薬も取れるって意味だよな」
 勢いのままに目の前にある体を押し倒して、上に乗った。さっきとはまるで逆だ。一瞬驚いた顔をした臨也は俺の言葉を聞いてそれでも笑った。
「……やっぱりシズちゃんって、単細胞だね。とっくに溶けてるに決まってるし、毒薬なんて、体内に入った時点でアウトだよ。それに素手で胃もぎ取られたらそれこそ死んじゃうって」
「じゃあ新羅でもなんでも呼ぶ。手前を、死なせるなんてしねえよ。手前は、俺と一緒に生き地獄を味わうんだ」
「……はは、なにそれ。最悪、だね」
 臨也がうつらうつら瞼を閉じては開けてを繰り返すようになった。胸はせわしなく上下して、小さな口からは少量の酸素しか吸い込んでいないように見える。――あと十分も、もたねえかもな。
「絶対に、死なせねえッ……!」
 それにしても、なんで俺はこんなに必死になってるんだろうか。一緒に生き地獄味わおうぜってことだけなのに、それとは別の理由があるみたいに、まるで、ただ死んでほしくないように、必死になって掻き抱いてるってどういうことだよ。
 携帯は新羅の家に繋がっていた。俺の臨也を呼ぶ声が聞こえてただごとじゃないと感じたのか、五分後、セルティと一緒にバイクに乗った新羅が医療器具を持って、ぼんやりと光が射す暗い路地裏に駆けつけてきた。







1104052304



額にキス=祝福って意味らしいです







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