とさり、軽い音を立ててふかふかのベッドに押し倒される。シズちゃんの家って、意外ときれいでこんないいベッドもあるんだね。てっきり今にも壊れそうな明かりも付かないアパートに住んでると思ったのに、ちっちゃいけど、ワンルームのいいマンション住んでるんだね。
 初めて知ることばかりでただでさえ戸惑っているのに、押し倒されるなんて俺の頭はついていかないよ。ずっと触れたくて触れられたくて堪らなかったシズちゃんにベッドに押し倒されるなんて。なんだよこれ。怖いよ、
 目の前にいるのは本当にシズちゃんなの? シズちゃんは、俺を俺と解って押し倒してるの? ねえ、誰かと間違っちゃあいない?
 ――俺なの?
 本当に? そんな優しい声で言って、優しい目で見て、優しい手つきで髪を掻き分けてくれて、そんなことしてる相手が俺なんだよ? 本当に、本当の本当に俺って解ってやってるの?
 やだ、泣かせる気。ひどいよ。ずっとひどいことされてきたけど、今日が一番ひどい。殴られるよりも、優しくされるのが一番苦しいってこと、シズちゃんわかってる?

「わかってるよ」
「……嘘だ、俺を傷付けるためにしてるんでしょ」
「違うっつーの。俺は、臨也のことが好きだから、こういうことしてるんだよ」

 臨也って、確かに名前を呼んだ。
 俺なんだ。シズちゃんが好きでいてくれてるのは俺なんだね。
 どうしよう、疑う気持ちが拭えない自分に嫌悪を感じるのもあるけど、それ以上に苦しいんだよ。なんでだろう。なんで愛されることがこんなに苦しいんだろう。
 愛って、心地好くて、温かくて、ふわふわして、幸せで、そういうものじゃないの?
 自分で苦しくなってるくせに、苦しくなる意味がわからないよ。シズちゃん。助けてシズちゃん、苦しい。

「ボロ泣きすんなって……泣かれたら、どうすればいいかわかんねえだろ」
「……く、るし……シズちゃん……」
「あーもう……落ち着けって。なんで苦しいんだ?」
「わかんない……なんで、ねえ、幸せなはずなのに、こんなに苦しい。の?」
「…………」
「俺、シズちゃんと一緒にいて、幸せなはずだよ? ずっと、ずっと好きだったのに、それなのに、なんで、苦しいんだろ」
「臨也……」
「シズちゃん、俺怖いよ……なんでこんな情けないんだろ、んっ……」
「……っ」
「……ん、ふ……んん、――」

 言葉を続けることを禁じるように、唇を塞がれた。今までされたことのない、舌が絡まって、唾液を交換するようなキス。息がしずらい。やっぱり、苦しい。俺はいつこの苦しさから解放されるのだろう。とりあえず、早く口を離して呼吸をさせてほしい。
 でも、離れたくない。キスしていたい。
 めちゃくちゃだね。もうなにがなんだか解らない。頭も身体も感覚もすべてがめちゃくちゃで、俺が俺じゃなくなるようで、なにも解らない。

「はっ、あ……はあ……」
「苦しかったか」
「っはぁ……あ、う……くるし……」
「苦しいよな」

 ごめんな、そう言ってシズちゃんは俺を抱きしめた。シズちゃんの重みが、めちゃくちゃになった俺には気持ち良くて何故かとても安心した。
 恐る恐る、そっと背中に腕を回すと、もっと強く抱きしめられて身体が軋む。
 いいよ、このまま俺を抱きつぶして。そのまま俺をシズちゃんの一部にして。
 絶対離れないように、俺をシズちゃんのものにして。

「俺もな」
「……」
「すっげえ苦しいよ」

 いつになったらこの苦しさから解放されるのだろうか。いつになったら、純粋に幸せになれるのだろうか。
 俺は、いつになったら、

「シズちゃん」

 彼の幸せを受け入れることができるのだろうか。







1102152337






人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -