来神の校舎の屋上に寝転がっていると、青空しか見えなかった。雲一つない、絵の具の青で白い紙を塗り潰したような青い空。ずっと眺めていたいと思う半面、腕を枕にしてるせいか頭が痺れてきて起き上がりたくもなる。
のろのろと上半身をあげる。重々しくため息をつきながら。
授業をサボるくらいには物事に対するやる気がなかったし、いっそのこと寝たかったけど寒さがそうはさせてくれない。
なにかあればいいのにと、アテもなくポケットをごそごそ探ると、カチッ、固いものに当たる感触がして取り出してみればライターが一つ、俺の手に握られていた。
そういえば、いろいろと便利だからって、駅で買ったんだっけ。まあ主に、シズちゃんにあれこれする用だけど。
結局使ってない。だって近付くこともできないんだ。ナイフで切れないんなら燃やしてやろうと思ったけどそんな余裕もなく首を掴まれてしまう。息が苦しくて体が動かなくて、ああ、思い出したくもないあの目線。
つまりシズちゃんに正攻法でいくのは無理。このライターも使い道なくポケットに眠っていたわけ、ね。
せめてこういう場面では役に立ってくれよ。という思いを込めながらシュボッと音を立てて勢い良く火をつける。
「……うーん」
しかし、あまり暖かくない。やっぱりこれだけじゃあ無理か。紙でもあれば燃やすのに。
おとなしく暖房の効いた教室に行って授業を受けるか、いや、それなら自宅に帰りたい。まだ陽は頭上にある時間だ。妹達も誰も家にはいないだろう。
やれやれ、立ち上がろうとしたら、俺を覆った影がそれを止めた。
目の前にのぼる煙。苦い香り。柄のある筒。煙草だ。
俺が眼前で点していたライターに煙草が寄せられ、瞬く間にそれの中は赤くなっていった。
少し目線を上げると、空よりは全然薄い青のブレザーを身につけた金髪の男が立っていた。
「シズちゃんもサボり?」
「一緒にすんな。ノミ蟲臭くて授業に集中できねえから潰しに来たんだよ」
「なのに、なーんで俺はライターを貸してんのかな」
「切れたから、ちょうどよかった」
「未成年は煙草吸っちゃ駄目だよ」
「知ってる」
殴る気がないのは見て取れた。
額に青筋が浮かんでなければどこか静かな目をしていて、ただ、サボりに屋上に来たら偶然俺がいて、ライターを持っていたから貸してもらおうとした。だけだろうな。サボろうとするのだから、喧嘩する気もないのだろう。
ちなみになんでこんなにシズちゃんの気持ちが分かるかっていうと、俺も似たような気持ちだからね。
フェンスに寄り掛かったシズちゃんは、煙草を口に挟みぼんやり空を見上げていた。何考えてるんだろう。さすがに、そこまでは分からない。
シズちゃんはわかりやすそうに見えて掴みどころがないから困る。いつも、一人でいるのに寂しそうな表情をしたことはないし、愚痴を零してる姿なんて見たこともない。
それが、シズちゃんを掴めない決定的なところなんだろうな。
俺は本当は、一人なんて嫌だ。ここから――屋上から飛び降りたいくらいに寂しいし逃げ出したい。俺の居場所なんてどこにもない。
俺に合う場所なんて、どこにもない。
シズちゃんがそんなことを思ってるとは、とてもじゃないけど有り得ない話で、じゃあシズちゃんは一人でも大丈夫なのかな、って考えて、なんで苦しくなるんだろう。
俺はいつもその繰り返しだ。自分で考えて自分で苦しんで、結局俺が生きていて辛いと思うのは、俺自身のせいなんだ。
愚かすぎる事実に、笑えもしない。
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