※経験有り・性格悪い静雄・Notハッピー
※どんな話でも許せる方どうぞ











 どうしてだろう。こんなこと考えるだけ無駄で
、気分が下がっていくだけだというのに、俺の中に侵入する彼の指が気になってたまらなかった。
 この指に触れられることにどんなに焦がれていたのか、そしてそれを想像しながら何度自分の欲を沈めたのか数え切れない。
 それなのに、慣れたような動きに、熱い指。興奮したように見せて余裕な表情。なにかがつっかえる。
 鍛え上げられた体に金髪に射抜くような瞳。それらには、確かに胸の高鳴りを覚えるのに、触られる度にもやもやとしたものはひろがって、指が奥に奥に侵入してくる度に、拒みたい気持ちが込み上げてくる。

「どうしてそんな浮かない顔してんだよ」
「……その言葉、そのまま返すよ」

 楽しそうに、興奮してるように見せながら、すっごくつまんなさそうにしてる。冷めた表情をしてる。
 俺はシズちゃんとは違う世界に生きていてシズちゃんの世界を知らないから、彼に抱かれてるこの事実に満足してしまう。でもきっと、彼は満足していないのだろう。全然つまらないのだろう。彼がどんな世界を知っているのか知りたくもなかった。こんなこと、するまではすっかり俺が初めてだと思ってたのに。シズちゃん本人から聞いたわけではないけれど、これは絶対に経験がある。それも相当の。
 そう確信した途端、急にこうしてる自分が滑稽で、恥ずかしく思えた。

「嫌……やっぱやめて」
「……あ? なんでだよ。お前が誘ってきたんだろ」
「そう、だけど……やってみて怖くなったというか……そっ、そもそもそんなとこに挿れるのって無理でしょ! やめようよ! ね!」
「なにビビってんだよ。無理じゃねえだろ。ほら、指入ってるしよ」
「あっ……や、だ、あぁ!」
「……な、気持ちいいだろ」

 そう。誘ったのは俺からだった。好きなの、抱いて。初めてだから優しくして。夢中すぎてなんて言ったのかよく覚えていないけど。
 そして、男には、中で気持ちよくなる一点があると知った。シズちゃんを好きになってから男同士の性行為について調べていろいろと知識だけはあるんだ。でも、初めては違和感しかなくて痛いだけ。と書いてあった気がする。
 それなのに、違和感があったのも痛かったのもほんの一瞬で、今自分の体は中から与えられる快楽に支配されていた。
 やだ、逃げたい、触らないで。汚い、やめろ。しかしそんな思いは、シズちゃんの一言で消されるのだった。

「臨也、可愛い。お前しか愛してないぜ」

 どうでもいいや。
 その言葉以外のことなんて、どうでも良くなる。甘さを含めた低音で、耳に息を吹き込むようにして囁かれたら、そうなってしまうのも仕方のないことだろう。
 でも、ちらりとワイシャツの隙間から見えてしまった赤い痕。
 体温は急速に下がっていくのに、何かに縛られているように離れることができないでいた。



「これっきりにしようか」

 行為を終えて、背中を向け合って服に腕を通している時、俺から何気なく言い出した言葉。
 最中何度も愛してるだの好きだ臨也だの、たくさんの愛の言葉を囁かれたけど、一回だって目は合わせてくれないし、表情はやっぱり冷たいままだった。
 熱から解放されてやっと冷静になった気がする。魔法から解けた気分だ。
 振り向くと、シズちゃんもこっちを見ていて、その顔はいやに真面目だった。
 本当は真剣に考えてないくせに。その気があるっていうのに演技がうまいね。でもプライドはあるのか、悲しい顔をしてくれないとこが俺が今日初めて知った彼らしい。

「……泣くなよ」
「涙くらい、流させてよ」
「笑えよ」
「……優しいフリがうまいね」

 俺の言葉を聞いて、張りつけていた気持ち悪い表情がふっと消えて、ちらちら見えた冷たい表情が顔に出た。
 面倒くさそうにため息をついてから煙草を取り出し、ライターで火をつける。
 服を身につけ終えたシズちゃんは荷物を持って、ホテルの一室の扉を開いた。
 あっけなさすぎて実感が湧かない。
 さっきまであの男に抱かれていたことも、今それが終わろうとしていることも。
 ベッドの淵に座ってぼんやりとその姿を眺めていると、最後と言わんばかりに、本当に楽しそうな顔をしたシズちゃんがこっちを向いて、自分の首筋にある痕を指差しながら一言、

「お前のここにも、嘘があるよな」

 バタン 扉の閉まる音だけが部屋に響く。

「……は……はは、あは、あはははは! は、あははは!!」

 ベッドに寝転がり、腹を抱えて笑う。
 悲しいのか笑いすぎてなのか、わからないけど涙が出てくる。さっきの涙は演技だったけど、なんでだろ勝手に出てくる。
 笑いが止まらない。涙も止まらない。
 楽しいのか悲しいのかも分からない。

「俺のこれ、虫刺されなんだけど」







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