最近は時間が過ぎるのが早く感じられて、いつの間にか季節は過ぎていて服を変えないととか、ぼんやり気付いたりする。それほどに自分の中の感覚はずれていて、まるで生きてることを全然感じてないようだった。
 今はいつだろう。外を見ると空は真っ青で晴れていて、わからなかった。
 けれどもどこか懐かしく感じて、春が近付いている気がした。まだ冬になったばかりじゃないのか。そういえば少し前に夏が終わったような。
 そもそも、自分は今何歳だろう。昨日まで、高校生じゃなかったっけ。
 卒業式前日にシズちゃんと喧嘩して、朝まで追い掛けられて、当日学校にいられたのも一瞬だけで、またすぐにシズちゃんに追い掛けられてしまい、卒業式は俺達二人だけ欠席。
 思い返してみると、ずいぶん懐かしくも思えた。
 シズちゃん、か。
 出会ってからほぼ毎日会っては喧嘩してたな。どんな手を使ってもなかなか死なないし、嫌いとか言うからこそ無関係にもなれなくてずるずる不快な関係を続けて、もう、何年経った?
 でも昔に比べて随分変わったようにも感じる。
 高校は卒業したし、俺は新宿に越したから、毎日会うどころか、何ヶ月も会わない日があった。
 シズちゃんが新宿に来ることなんてめったにないし俺は仕事以外だと池袋に行かないし、会えば喧嘩するけど会わないから喧嘩することも少なくなって、やっと平和な日々がやって来た。
 ……いや、平和なんかじゃない。シズちゃんが生きてるってだけで平和さよならだから。
 いなくなって欲しいって思ってるのに自ら足を動かさないのはなんでだろう。
 暇があるならシズちゃんに会いに行けばいいのに、それができないのは、疲れてきたからかな。池袋での取引を、全部新宿に変えてもらってるところ、そうなのかもしれない。

 今日でシズちゃんに会わなくなって一年。
 一人で仕事をしているせいか、声を出すことは取引の時だけで、友達がいないとは言わないけど一緒に飲みに行くような相手がいないから、俺は、騒ぐこともなくなった。
 シズちゃんが俺にとってのストレスであって、ストレス解消でもあって、唯一の騒げる相手だったのかもしれない。
 シズちゃんは、必要な存在だったのかな?
 それはないと思ってしまうのは、意地なのか本当なのか解らなくなるくらいに俺は疲れていた。

 外に出たら、風が頬を撫でて、それは冷たいはずなのに温かくて意味もわからず感動した。
 電車に乗るなんて、いつ振りだろう。乗ることは何度もあったけど池袋行きの電車に乗るのは、すごく懐かしく思えた。
 シズちゃんはなにしてるんだろう。俺のこと、覚えてるかな。
 忘れてたっていいや。そしたら、一から始められるから、できれば忘れていてほしいかもしれない。
 懐かしい景色に懐かしい空気、俺の目の先には、俺を真っ直ぐ見つめる男がいた。
 すぅっと息を吸い込むようにして開いた口は、しかしゆっくりと閉じていって、小さく音を洩らした。

「……臨也」

 懐かしいもの全部を含んだその声と、姿に、悲しくもないのに泣きたくなった。







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