泣くのは好きじゃない。
 泣いて、同情してもらって、許してもらう奴が、俺は大嫌いだ。
 同情なんてうざいし涙を見せるのは自分の弱い部分を見せるようで気に入らない。そんなことで許してもらえるなら俺は許されないでいい。

 つまり、シズちゃんと喧嘩した。

 理由はよくわからない。お互い話が合わないとこがあって冗談で嫌味を言い合ってたはずなのにいつの間にか本気になっていて、はっとした時には俺はシズちゃんの家を飛び出していた。
 やってしまった。
 感情に流されて行動すれば、いいことなんて何一つないし、後悔するのは目に見えている。それなのに感情で行動してしまった俺は、まだまだ子供なのかもしれない。
 コートも携帯も財布も、全部シズちゃんの家に置きっぱなしにしてしまった。
 絶対に取りに行くことになるんだし、それなら早めに行ったほうがいいのだけど、足が戻ることはなくどんどんシズちゃんの家から遠ざかっていく。
 一度喧嘩したら厄介だ。
 暴力的な喧嘩ならまだ、すっきりして終わることができるけど今回のようにねちねちした喧嘩はなかなか面倒なことになる。
 俺もシズちゃんも、頑固だからどちらかが折れて謝ることなんてないし、泣いて同情してもらおうなんて有り得ない。
 先のことを考えて自然にため息が洩れた。
 なんで、うまくやっていこうと思っているのにうまく行かないんだろう。
 俺とシズちゃんって、合わないのかな。
 気分が下がるといらないことまで考えてしまう。考えたら、どんどん辛くなっていくだけって分かっているのに別の考えを持つことなんてできなくて、じわじわと沈んでいく気がした。

「さむ……」

 冬にコートなしのインナー一枚はさすがにキツい。
 シズちゃんの家に戻る勇気もないからとりあえず新宿に帰りたいのだけど、財布がないから電車にもタクシーにも乗れない。
 新羅の家に行こうかな。それとも、ドタチンを探そうかな。でもこんな情けない自分は見られたくない。
 なんとか逃げ道を探そうにもいい場所は浮かばなくて、やっぱりシズちゃんの家に戻るのが一番だと、最終的な考えに至るがそれができなくて、寒い中、池袋を歩くしかなかった。
 俺はこのまま凍死してしまうかもしれない。デパートに入ればいいけど、そろそろ歩く気力もなくなってきた。
 どうしてこんなことになってしまうのだろう。俺がいけないのかシズちゃんがいけないのか、なんで俺がこんな辛い思いをするのか。
 たくさんのことが頭の中をぐるぐる回って、涙が零れそうになる。
 しかし泣くのは嫌だ。そしたら完全に俺は弱虫だ。
 ぐっと耐えていると、周りの雑音を掻き分けるようにして聞き慣れた声が耳に響いた。

「臨也!!」
「…………え、」

 声のしたほうを振り返ると、眉間に皺を寄せて、額には汗を浮かべて走っているシズちゃんの姿があった。
 なんで、自然と口から言葉が洩れた。
 俺達が素直になることなんてないし、お互い頑固で意地っ張りなのに、なんで俺を追い掛けてくるのか。
 俺の前に来たシズちゃんは周りの目など気にせず走った勢いで俺のことを強く抱きしめてきた。
 なんで、また自然と出てきた言葉。
 抱きしめられると、胸がきゅっと締め付けられて、嬉しいやら悲しいやら、ごちゃごちゃとしたよく分からない感情が渦巻いて、俺の目からは、涙が零れていた。
 最悪だ。泣くのは嫌いなのに。別に同情してもらいたいわけじゃないしシズちゃんに謝ってもらいたいわけでもないし許してもらいたいわけでもない。
 それなのに何故泣いてしまうのか。

「ばか……泣くんじゃねーよ」
「お、れ、だって……泣きたくなんかないよ」
「あーちくしょう。泣かれても俺は謝んねえからな!」
「謝んなくていいし!! てかなんで来たわけ!」
「知らねーよ! 自然と足が動いてたんだよ! ちくしょう!」

 意味わかんない意味わかんない。なんでよ。そんなの理由になんないし。
 それでも胸を満たしていくこれは何なんだろう。温かさがひろがって、余計泣きたくなる。
 一回出てしまえば止まることなく溢れてきて、俺はシズちゃんの胸に顔を押し付けた。

「シズちゃんの、ばか」
「バカはお前だ」
「もう、喧嘩したくない……」
「……俺もだよ」

 不本意すぎる展開に、不思議と不快感は湧かなかった。
 泣くのは最初で最後だ。もう喧嘩はしない。辛いことがあったって、俺は泣くのが嫌いなんだ。
 だから、泣かないためにもう、二度と喧嘩はしない。







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