シズちゃんに俺の言葉は伝わらない。
 言葉に含めてる思いも伝わることはなく、全部否定されてしまう。

「ねぇシズちゃん、セックスしようよ」
「しねえよ」
「……なんで」
「したくねえから」
「いっつもそれだね」

 俺のことを好きというくせに、抱きしめるくせにキスするくせに、
 セックスだけはしてくれない。
 やっぱり男同士だと抵抗あるの? 会話の流れでいつもそう聞くが、違う。と、いつもと同じ返事がくる。
 シズちゃんが俺に嘘をつくことはない。それはシズちゃんとずっと一緒にいる俺が知ったことだから本当だ。
だから、男とセックスしたくないとか、そんなことを気にしてるとは思えないけど、じゃあなんで、って思う。
 それはさすがに聞けなかった。怖いのかもしれない。とてもじゃないけどいい答えが返ってくるなんて思えなかったから。

「ほら、お前明日、朝早いんだろ。寝るぞ」
「寝れない」
「……ったく」

 シズちゃんといると、自分はまだまだ子供だなあと感じる。
 甘えたがりで構ってたがりで、たくさん話したいし俺を見てほしかった。
 そんな俺の心理を知っていて、シズちゃんは俺をベッドに潜らせて、すぐ横に座る。
 優しく頭を撫でてくれては他愛ない話をして思わず笑い合ったり、この時間は俺にとってなくてはならないものだった。

「眠くなってきたか?」
「んー……まだ」
「絵本でも読めば、気付いたら寝てたりするかな」
「あっは、俺は子供じゃないって」

 実は目を瞑って3秒したら眠りにつけるくらいには眠かった。
 でもこの時間が終わってしまうのは嫌だから、寝ないように瞼が下りてきてはまばたきをして耐えた。
 でも――シズちゃんの心地いい低音が遠くなっていく。やばい、寝てしまう。

「おやすみ、臨也」

 ちゅっとリップ音を立てて俺の唇にシズちゃんの唇が触れた。
 満足感がありながらもどこかポッカリと穴が空いていて、それも全部眠気にぼやけてしまっていつの間にか俺は深い眠りに落ちていた。



 早朝、空もまだ暗いうちに目覚めた俺は、冬の寒さに震えながらも抜け出したくない布団から出て、冷蔵庫にあるもので軽い朝食を作る。
 シズちゃんは穏やかに寝息を立てていて、布団にくるまつて熟睡していた。
 うらやましい。俺もまだ寝ていたかったな。なんて考えながら、できあがったものを皿へ移した。

「うーん。微妙」

 美味しくなければ不味くもない。進んで食べる気にはならなかったが、今日も一日重要な取引がたくさんあるし、集中できるように食事はとらないと。
 一応、シズちゃんの分も作ったけど、これはだせないな。全部自分で食べよう。



「いってきまーす」

 朝食を終え、準備を整えて玄関を開ける。もちろん反応はないけど無言で出て行くのは気持ちわるいし、声を掛けておく。
 それに、紙切れに書き置きを残しておいた。
 「今晩も来るね」と。これはいつもしていることで、俺の書き置きを大切に引き出しに閉まうシズちゃんもいつものことだろう。
 初めて見た時は驚いた。
 一文字も変わらず同じことが書いてある紙切れが、俺の雑な字がずらりと引き出しの中に入っていて、それを見てしまったからこそ俺は毎日書き置きをしていくようにした。
 余裕のない朝だって、怠い朝だって、髪の毛に寝癖を立てたまま取引に行った日だってこれだけは絶対に書いた。
 嬉しかった。こんな些細なものを大切にしてくれるのが。
 これを見てシズちゃんが嬉しそうに笑っているのだろうかと思うと、胸が熱くなったから。

「……ああ、でも」

 吐いた息が白く、空気へ溶けていった。

 でも、セックスはしてくれない。
 俺は別に欲求不満じゃないし気持ち良くなりたいわけでもない。
 ただ、シズちゃんと繋がりたかった。
 愛されてる。という気持ちを強く感じたかった。
 なんでシズちゃんは俺とセックスしてくれないんだろう。
 抱きしめてキスして俺のわがままに付き合ってくれて紙切れを大切にとっておいて。
 それなのに、なんで。
 心は交わっているのに体は交わることができないなんて、

「――解んないなあ」

 俺は欲張りだ。







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