シズちゃんと会えたことでいろいろ辛い思いをして、切なくなったりしたけど
シズちゃんと会えたからこそ俺は夢の世界に投げられたかのように、幸せすぎる場所にいた。
きっと今俺が捻くれた性格をしているのはシズちゃんに出会ったことが大きいだろうし、
シズちゃんに出会わなかったら俺の人生は大きく逸れていたと思う。
苦笑いが零れる。
なんで嫌いで嫌いでたまらないシズちゃんのせいで、俺は変わってしまっているのか。
なんで嫌いで嫌いでたまらないシズちゃんと体を重ねて、愛を囁き合ったりしているのだろうか。
俺にはどうも、流されるままにここまで来てしまったとしか思えなかった。
「今度、」
「ん?」
「今度、どっか行きたいとこあるか」
「……は?」
ベッドに押し倒されて、求め合いが始まるのかと思いきやシズちゃんはそんなことを言った。
今まで二人で特別遠くに行ったこともなければ、外で会うのは偶然バッタリの時くらいだった。
それどころか外ではまともに会話することなく、喧嘩で終わりなんだ。 それを何故急に「今度、どっか行きたいとこあるか」だ。
意味が解らない。いいから早く始めようよと動きを足すが、返事をするまでは動く気がないのか、シズちゃんに見下ろされたまま空白の時間が過ぎる。
「……なんで」
「俺がお前と、どっか行きてえんだよ」
「なんで」
「……はぁー、お前は、そう思わないのかよ」
悪いけど、全然。
なにが悲しくてシズちゃんと二人で出掛けなければいけないのか。
それはなんかの罰ゲーム? いや、もはや笑いの領域だ。俺とシズちゃんが肩を並べて歩くなんて。
「てか逆に聞くけど、なんでシズちゃんは出掛けたいのかな? 俺を世間の笑い者にしたいの?」
「違ぇよバカ」
「バカって言った奴がバカだよシズちゃんのバカ」
「お前一回黙れ。……普通、好きな奴とはいろんなこと共有したいとか思わないのかよ」
「…………残念だけど、思ったことないね」
つまりなに? シズちゃんは今の関係に不満を感じてると。
というかね、まず俺達が体を重ねるだけでおかしいというのになんでそれ以上を求めるんだろう。シズちゃんは俺になにを求めてるんだろう。
体だけじゃ満足いかないのか、なんて欲張りなんだろうこの人は。
そもそも、俺は知らない。――こんな感情だって、こんな感情を抱いてる相手となにをすればいいかなんて、解らない。
「……ごめんね俺は経験豊富じゃなくて残念ながらシズちゃんが初めてだからなにも知らないんだよ」
「はあ? なに言い出してんだよ手前」
「だから、好きな人とどういうことすればいいか解らないっつってんの!」
思わず逆ギレしてしまう。なんで俺がこんな恥かいてるんだろう。
ああそうですよ。俺は人ラブですけど愛されたことはないんですよ。
人が愛し合ってる姿なんて腐るほど見てきたけどね、
いざ自分がそういう立場に立つとなにすればいいか解らないんだよバーカ!
「……ああ、そっか、お前、そうだよな」
「……なに。そんな憐れんだ目で見ないでよ」
「憐れんでなんかねーよ。……嬉しいんだよ」
これから激しく抱かれるんだろうな。理性を失ったシズちゃんは容赦ないから。
そう思っていたのに驚くことに、俺は現在、有り得ないほど優しく抱きしめられていた。
どういうことなんだろうこれ。
俺は、どう反応すればいいんだろう。
「俺が、全部教えてやるからな」
「……なにそれ。ムカつく」
「俺だってなあ、経験豊富なんかじゃねーよ。全部お前が初めてで、いつもドキドキしてるっつーの」
シズちゃんの心臓に触れた部分から、鼓動が伝わってくる。
ああ、はやいなあ、ぼんやりとそう感じた。
俺は今どこにいるんだろう。それさえわからなくなるほどに頭がボーッとしていた。
なんでか、胸の奥がじんわり温かくなる。
ああもう意味わかんない。
初めてのことばかりで、こんなことが続いたらいつか俺は、自分が自分じゃいられなくなってしまうかもしれない。
シズちゃんのせいだ。
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