※微エロ注意
「あ、はぁ、や、だ……やだやだ!」
「そんなこと言いながら、体は喜んでるぞ」
俺はいつまでこの地獄を続けなければなあないのだろうか。九十九屋と、大嫌いな奴とこんなことするなんておかしい。俺に得することなんてあるのかさえ分からなかった。 こんなことを続けてもうどれくらい経ったかも分からないのに今だ写真は削除されないまま。
「く……そ、うあぁぁっ……!」
「またイったのか。これで何回目だ」
何度も九十九屋の目を盗んで写真を消そうと試みた。もちろんのことパソコンには鍵が掛かっていたが思い当たるキーワード、適当にキーボードを押したりした。しかしそんなので解けるわけもなく、その行為が見つかった時はひどく抱かれた。 いつもひどいけど。
「は、ぁ、……も、やだぁ……!」
「……お前、俺に抱かれるのは嫌がるくせに、静雄にされる時は抵抗もしないよな」
「…………っ」
「はは、悪い悪い。そう睨みつけるなよ」
九十九屋はなにかとシズちゃんの話題を出してくる。こいつは全部知っているのだろう。人の気持ちも関係もなにもかも。俺は、こいつにはシズちゃんの名前を出されたくなかった。自分はもう取り戻しようがない。シズちゃんにあんな写真が見られないためだったらどんなことでも耐えられる。もうすでに、汚れているのから。
でも、シズちゃんを、俺を汚したこいつの口から呼ばないでほしい。シズちゃんはこんな世界に存在しなくていいんだ。
「明日も、もちろん来るよな」
「…………」
問い掛けるような口調は、ずるかった。俺に選択肢を与えてるんだ。ここで首を横に振ることができれば縦に頷くこともできる。卑怯だ。最終判断を俺に与えるなんて。
俺は無言で服を拾って腕に通した。そしてふらつく足に鞭を打ち、忌ま忌ましい場所から抜け出す。もう二度と来たくない。 そう思ったって、また来てしまうのだろう。
シズちゃんのために。
「やあ! 久し振りだね」
「……なんの用だよ」
九十九屋に会った後、いつもシズちゃんに会いたくなる。しかしあれ以来気まずかったり問い詰められたりするのが怖くてなかなか来れないでいた。今日は何故だかいつもより会いたくなって、シズちゃんの声が聞きたくなった。電話なんかしたらもっと会いたくなることなんて分かってるし、それならどうせと思って、直接ここに来た。
「そんな嫌そうな顔しないでよ。入れてくんない? 俺、ずぶ濡れなんだけど」
最近天気が悪く、今日もザアザア降りの雨だった。早くあいつの匂いで充満してるとこから出たくて、傘を忘れてしまったのだ。取りに戻るにことなんて絶対にしたくないし、ならばとなにも差さずにここに来た。
「……なんだよ。一時期来なかったと思ったら、ひょっこり現れやがって」
「俺だって忙しい時はあるんだよ」
扉を空けたままシズちゃんは踵を返して部屋の中に入って行った。これは俺も入っていいという合図だから、後について行って鍵を閉めた。
濡れたままどこかに座る気もしなくて突っ立っているとシズちゃんからワイシャツと長ジャージを投げられる。
「タオルは」
「洗面所に置いてある」
つまりそこで着替えろってことか。いまさらなにを。何度も裸なんて見て触れてる仲だというのに。 別に口に出す気もなかったのでおとなしく洗面所に向かった。
水分を含んで重くなった服を脱いで洗濯カゴにほうり込む。ワイシャツを着てみたら、案の定というべきか、ぶかぶかだった。これは下なんて、穿いたらずり落ちるんじゃないか。げんなりしながらも一応穿いてみたら、やはり抑えてないと無理だった。それに足の丈なんて余りまくりで、引きずって歩くハメになるし、これは面倒だ。
「……これ、下なくてもいいよね」
洗濯カゴを持ってシズちゃんがいる部屋に戻った。確かハンガーがあったから、これ干そう。
にしてもこの部屋寒い。それにただでさえ雨で暗いっていうのに電気すら点けてないせいで部屋の中はどんよりとしているように感じた。
「ねえ、せめてストーブくらい付けてよ。俺風邪引いちゃう」
「文句言うなっつーの。あ、てか濡れた服どうしたんだ……」
そう言って振り向いたシズちゃんは、一瞬固まって、どうやら絶句しているようだった。
「……なに?」
「…………おい、お前なんで下穿いてねえんだよ」
「え? だってぶかぶかだし。上一枚で十分でしょ」
なんでそんなこと気にするんだか。セックスする時以外のシズちゃんは、普通すぎる。してる時は容赦なく脱がして貪ってくるくせに、それ以外は肌を見たくないとでも言うようなこの反応。
「……あ、もしかして欲情しちゃうから嫌だとか?」
「……手前よお、いいかげん黙んねえと」
「もしかして図星?」
「…………犯すぞ」
ドスの効いた低い声に、鋭い視線に睨まれてゾクリとした。
本音を言えば犯してほしかった。ひどくしてめちゃくちゃにして、あいつの感覚とか体温とか、全部全部忘れたかった。でもそんな理由でシズちゃんに抱かれるのは、悔しいし、嫌だった。
「冗談。俺疲れてるから」
はぐらかすように目線を逸らしてベッドのふちに座る。ベッドの下、寄り掛かるように座ってるシズちゃんの横には俺のふくらはぎが並んだ。
「……誘ってるようにしか思えないけどな」
「なにシズちゃん、欲求不満なの」
馬鹿にするように笑う。そしたらシズちゃんはキレて、俺を殴りに掛かって、俺はワイシャツの胸ポケットに入れておいたナイフを取り出して喧嘩になる、
なるはずだった。
「……シズちゃん?」
しかし予想に反して彼は無言だった。無言で俯いて、それから顔を上げてあの鋭い視線で俺を見上げて、言った。
「……そうだよ、欲求不満だよ。だから抱かせろ」
俺の両足に左腕を巻き付けて、舌を這わされる。ちょ、っと……え、マジ、で、
予想外の反応に戸惑いが隠せない。なにも抵抗することができず、そのままふくらはぎを舐められ続ける。
どうしよう、嬉しい。
シズちゃんが俺に欲情してくれてることとか、これから抱かれるという期待だとか、
久し振りに欲しい体温が得られる。九十九屋に抱かれてしまっているという罪の意識はあったが、シズちゃんの欲を目の前に、そんなの無意味だった。
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