誰かを自分だけのものにするっていうのは、100パーセント無理なことだというのは分かっている。人は、生きてるうちに多くの人と出会って、好きになって嫌いになって。そんなことの繰り返し。全部理解している。俺なんて痛いほど分かっている。けれど、ただ一人自分だけのものにしたいという存在があった。そんなの無理だけど、でもどうしてもどうしても、自分のものにしたかった。

「…………」

「なんだよ、黙って」

「なんでも」

 暗い部屋で、目の前の男に組み敷かれた状態でなにも動き始めずに会話をする。さっきまではする気だったけれど、考えごとをしたせいか、なにもされたくなかった。

「シズちゃんはいいよね。満たされてて」

 きっと、俺に独占欲を感じたりしないんだろうな。だってシズちゃんにはほかに愛す資格のある人がたくさんいるから。俺には、シズちゃんだけだというのに。俺の側には、俺の隣にはシズちゃんだけしかいないというのに。こんな不平等でいいのだろうか。 いや、俺の考えが偏ってるだけだ。自分が満たされてないからこんなことを考えてしまうんだ。シズちゃんは普通で俺は普通じゃない。ただ、それだけのこと。

「悪いね、今日はもう寝よう。する気失せた」

「はあ? ここでそれかよ、俺、もう我慢限界に近いんだけど」

「シズちゃんは好きな人のこと無理矢理したいのかな」

「……嫌な言い方するよな」

 シズちゃんに、好きになってもらってもたくさん愛してもらっても俺一人だけ、という愛し方はしてくれない。ほかの人に対しての愛と俺に対しての愛は種類が違えど好きというのには変わりない。

「なんだよ。体調悪いなら最初から」

「違うって。ただそんな気分じゃないだけ。悪いけど、自分でどうにかして」

「お前がいてそれをするっつーのも……なんか空しいな」

「……はあ、仕方ないなあ。分かった、舐めるだけなら」



 きっと、こんなことを望まれるのもしてやれるのも自分だけ。自分限定のことだ。だからこそほかの面でのことは望まれないのかもしれない。俺はこういうことをしてやれるけど、シズちゃんのことが好きだから普通のことを共有することが、与えてやることができない。 全部を自分のものにすることなんてできないよ。でもね、それでも、俺の全てはシズちゃんなんだ。







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