冬の透き通った空にひんやりとした空気。息を吐くと白くなった。街の景色もずいぶんと冷えてるように見えて、静かだ。指先が固まらないように両手をすり合わせ、手をあっためる。はー、と息を吹き掛けるとほわほわとした温もりがひろがった。

「あいつ……どんだけ遅刻してんだよ」

 新宿駅南口。まだかまだかと来るべき人を待っているのになかなか来ない。腕時計を見ると約束の時間からとっく10分は過ぎていた。 時間にはしっかりしているタイプだと勝手に思ってたのにどうやら違うようだ。そろそろ我慢が効かなくなってきた。電話してやろうか、苛立たしげに携帯を取り出したところで声が掛かった。

「臨也!」

「……まず言うことがあるでしょ」

「ごめん」

「分かってるなら理由言ってくれない」

 顔を見ずに淡々と言葉を告げると少し戸惑ったような声が聞こえてちょっといい気分になった。さてどんな理由なんだろう。シズちゃんだから、なにかしら事情はあったから遅れたんであろうことは始めから薄々分かってる。分かってるけども!

「寝坊……」

「はあ!?」

「寝坊、した……」

「は、ちょっと……それマジ?」

「マジ……悪かったよ」

 約束の日に寝坊で、遅刻? 有り得ない。有り得えないんだけど。シズちゃんってしっかりしてそうで実はそういう感じ? ギャップ萌えとか全然感じないからね。

「あー……悪かったよ」

「それ以外なんか言えないのかなあ」

「…………」

「もういいよ。行こ」

 せっかく、楽しみにしてたのに。もやもやしていく頭の中を冷やすように風が吹く。ひやりとした感覚に嫌な気分も散らされる気がするがなかなか晴れない。だってなんで。大雑把なところがあったっておかしくないけど、俺と会う日に遅刻する? シズちゃんに呆れてるとこもあるけど自分の乙女思考にも嫌悪感が生まれる。はあー、と気付かれないようにため息をついてみた。今の俺はものすごく残念な顔をしているだろう。

「……悪かったよ」

「もういいって言ってるだろ」

「いや……ごめん、嘘ついた」

「……へ?」

 なにを言ってるんだ。振り向くと、顔を真っ赤にしたシズちゃんが立っていた。なんで真っ赤になってるのさ。意味も分からず怪訝に顔を歪めるとゆっくりとシズちゃんが口を開いた。

「ほんとは寝れなくて……寝坊なんかしてねーよ。その……どんな格好すればいいのか、迷ってたら出る時間過ぎてて……」

「あ……」

 それを言うと俯いてしまいシズちゃんの顔は見えなくなってしまった。
 見る限り、いつも通りのバーテン服だった。けどきっと、迷って迷って最終的にいつも通りがいい。となったのだろうか。シズちゃんらしい、と思った。

「うそ……ほんと?」

「言いたくなかったから、寝坊したってわざわざ言ったっつーのに!!」

 頭をぐしゃぐしゃにするシズちゃんに心のもやもやが晴れていく。うわ……どうしよ嬉しい。

「……俺の」

「あ?」

「俺の、家来る?」

 さらに顔を赤くするシズちゃんに俺も顔が赤くなる。なんだよこの空気。はぐらかすように手を握って前を歩く。こんなドキドキするなんて、知らない。
 無言でも手の温もりが伝わるだけでお互いの気持ちが共有できていると気がした。







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