終わりは唐突に来た

 いつか来るとは思っていた。始まりがあれば終わりがある。曖昧なものは必ずなるべき形で終わる。そんなことを分かっていながらもどこか目を逸らしていた部分があった。
 もしかしたら一生この関係が続くのかもしれない。そんな考えさえ頭に浮かぶようになった。

 眠りについた顔を見つめる。とても穏やかとは言えない寝顔で、頬は赤く染まっていた。 今日は、いつもより酷く抱いて、暴力を行ってしまった。自分が分からなくなって、臨也にぶつけるなんて俺は最悪な野郎だ、そんなことを思っていた。昔だったら絶対にこんなこと思うはずなかったのに。赤くなった頬をなるべく優しい手つきで撫でる。少し、唸り声が聞こえた。どんな夢を見ているのだろうか。分かりかねない。

 毎回家を出て行く時に引き止められるのは辛い。いつもはそれでも決まった時間に出るのだけど、もう、話せる自信がない。俺はバーテン服に腕を通してこっそり家を出た。『ポストに鍵入れといた』というメモを残して。



 朝、 久し振りに自宅で目が覚めた。懐かしい感じがするし、違和感もあった。時間を確認するため携帯を開くと、ディスプレイを見て俺は、目を見開いた。

 ――着信履歴70件――

 誰から、こんな。名前を見ようとすればまた携帯は震えて、何者からかの着信を告げた。表示された名前を見て、俺はさらに目を見開く。

「臨、也……」

 そう、70件の電話も、現在も掛けてきてる相手も、臨也だったのだ。どうして、戸惑いが生じるがとりあえず出た方がいいだろう。通話ボタンを押す。

「もしもし、」

「シズちゃん、なんで、いないの! なんで電話に出ないの! いつもいるのにいきなりいなくなるなよ、今どこにいるの、起きたらシズちゃんがいなくてどんだけ、怖かったか……」

「…………」

 驚愕、こいつがこんなに感情的になるなんて、しかも、俺のことで。ここまで来ればもうごまかしなんて効かなかった。気付かないようにしておきながらそれをうまく利用していたのに、もう、そんなことできない。こいつのこんなに強い思いを電話越しに浴びせられると。



「お前、俺のこと好きなのか」



「なんで、今そんな質問するの。俺の質問に答えてよ」

「好きじゃない奴のことなんて、興味ないだろ」

「……シズちゃんなんて大嫌いだ」

 それでも、そう言うなら、俺は、通話を終了しようとした。しかし、それが気配で伝わったのか、「待って」という制止の声が掛かった。

「待って、よ」

「……まだ用か」

「好き、だよ」

「…………」

「シズちゃんのことが大好きなんだよ」

 言葉が出てこない。分かっていた。臨也が俺のことを好きなことは、ずっと前から、分かっていた。しかしこうして言葉にして言われると、全然違った。まずどう答えたらいいか分からない。そして、受け入れる自信がなかった。俺は、好きと言われて、好きと返して、臨也を受け入れられる自信がなかった。なにより、俺に受け入れる権利なんてないと感じたから。 散々してきたくせに、俺も好きだ、なんて言って付き合って? そんなの、おかしい。

「もう、止めようぜ」

「……なんで」

「俺はお前の体だけが目当てなんだよ。感情なんて持たれたら、ややこしくて堪らないんだ」

「…………」

「全部なかったことにしよう」

「……やだ、ごめ、訂正する。好きじゃない、好きじゃないから、今夜もうちに来て。酷くしていいから」

「もう、遅いだろ」

「シズちゃん待って!」

 音が、途切れた。驚くほどゆっくりとした動作で通話を切って、俺は、携帯を地面に落とした。
 終わっちまった。もう、臨也を抱くことはない。
 玄関を出る。自宅だからもちろん俺を引き止めてくれる温もりはなかった。 携帯は、落としたままだ。



 真っ青な空に、真っ白な雲はまるで自分に迫ってきているようだった。

 臨也のことをひどく突き放したのは、あそこで俺の正直な気持ちを言った方が辛い思いをさせると思ったから。同情なんて見せない方がいいんだ。
 池袋の街を歩きながら、俺は、二度と臨也と関わることはないのだろうと、薄々、感じていた。
 今はそれが悲しいのか嬉しいのかも、感覚を失ったかのようになに一つ分からないでいた。








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