午前は握手会、昼は静雄くんとほにゃらら。そして今は、


「あと何枚くらいー?」

 すっかり仕事ということを忘れていて、マネージャーから電話があって気付いた。内容もさきほど聞いたばかりだ。今日は収録じゃなくて撮影だけだから体力的には楽なもので安心した。しかし、まあ……これが意外と大変で。
 すでに収録を終えたDVDのパッケージに使われるものを撮っているのだけど、それが『ベッドの上で涙を流して抵抗。しかし勃起してしまっている』というなんとも面倒な図であった。相手の男は結構な体格で肌もそんなに綺麗じゃない。よくいる奴だ。すでに慣れたはずなのに今回は別で、なぜか、気持ち悪いと強く思ってしまっていた。
 収録の時は平気だったのに。どうしてだろうと頭を捻ってみれば撮り直しの声。ああ今は目の前の現実に集中すべきか。性器は撮影前軽く扱いて勃起しているのでよし。俺の上に乗った男を弱々しい目で睨み上げ、押し返すように肩に手を置く。シャッター音が響き渡りオーケーの声が入ると、逃げるようにベッドから下りた。

「……どうした。お前にしては抜けてるぞ」

「朝から仕事でちょっと疲れてるだけ」

「休憩なら十分あったじゃないか。なにしてた」

 マネージャーがうるさく話し掛けてきて、相手にするのも億劫で無視して楽屋まで歩く。すると、後ろから伸びてきた手に肩を掴まれ前に進むのを阻まれた。

「なに、」

「お前はもっとよく周りを見ろ」

 はあ? 嫌々に顔を歪めながらも言われた通り辺りを見回した。すると、楽屋に繋がる廊下にひっそりと佇む影が見えて、怪しく思い目を凝らすと、そこにいたのはしつこく俺を追いかけてくる、悪名高い奴だった。前はもうだめだ、というところで静雄くんが助けてくれたのだが……今回はどうだろう。正直言うと逃げ切れる自信がなかった。疲れてるのは本当だし、外にはうようよ部下とやらがいるのだろう。

「今日は車で送るか?」

「それで家つきとめられても困るし」

「今からホテルでも予約……」

「それよりも連れてってほしい場所があるんだけど」



 マネージャーに楽屋に置いてある荷物を取ってきてもらい、駐車場に出る。その様子を見たら、奴も同じように動き出しどこかへ向かって行った。奴も車に乗るつもりだろう。追跡されること間違いなしだから、マネージャーに車をいろんなとこに回しては停車するよう頼んだ。

「で、最終的にどこに向かうんだ」

「池袋にあるアパート」

「池袋のどの辺?」

「駅から結構離れてる」

 車が出される。駐車場を抜けて外に出ると待ってましたといわんばかりに出口付近に待機していた車が動き出した。なんとか撒けるかな。無駄に速い鼓動を聞きながら、携帯を開いたとこで気付いた。俺は、静雄くんの番号もなにも知らないのだ。どうか家にいますように、と願いながら窓からすっかり暗くなってしまった街に目を向けた。マネージャー、九十九屋はなにが楽しいのかニヤニヤ笑いながら車を運転していた。







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