情報屋をやっていると、どうも今の生活に飽きてしまうことがある。たくさんの情報が入ってきて、世界を見てしまうと自分はなんてこじんまりとした狭い場所にいたんだ。そう思えてくるんだ。入ってくるのは汚い情報ばかり。しかしたまに綺麗な情報もあって、綺麗なことを知ると自分がどれだけ汚いのかが分かって、嫌になるどころではなく呆れた。
 池袋からも新宿からも抜けて、きれいなところに行きたい。……そういえば修学旅行の時、京都の町はすべてがキラキラ輝いて見えたな。俺、ドタチン、新羅、シズちゃんの四人で行動班組んでいろんなとこ巡って。俺とシズちゃんは相変わらず喧嘩してたけどあの時は気持ちがはしゃいでいてなんだか楽しい喧嘩をしたような気がする。まるで、友達みたいに。ああ、もしかしてシズちゃんと俺はあの時ばかりは友達だったのかもしれない。一緒に楽しさや気持ちを共有して、夜ははしゃいで、朝、先生の放送に眠い目を擦りながら起きて、同時に目を覚ましたみんなに、シズちゃんに、おはようって言うんだ。朝食も豪華なそれに朝からテンションが上がって一緒に食べて。また、町を巡る。



 確かに俺とシズちゃんは友達だった。楽しくなって腕組んじゃったりしたもんね。感情が理性よりも強い時は感覚がズレてる気がするけど、まさにそれだった。だってあの時、一度もシズちゃんが嫌いだなんて思わなかったんだから。
 できればあの頃に戻りたいと思ってしまうのは、シズちゃんとまた友達になりたいと無意識の内に思ってるからだろうか。不思議なことだ。俺は、今ははっきりとシズちゃんが嫌いだと思えるのに。でも確かに友達になって楽しかった。もっと違う出会い方をしていれば俺達は最初から最後まで友達でいれたのかな。

 ……そもそもなんでこんな考えになったんだっけ。ああ、色んな情報があって、綺麗な情報が、ってとこでいつの間に変わってたんだね。


「はは、おかしいよな」


 なんでこんな昔のことを思い出してんだか。思い出したって過去に戻れる訳じゃないしどんなに強く願ったって、俺と彼が友達になることなんて二度とないのに。自分の滑稽さに軽く笑いを漏らす。しかし目を掌で覆うと真っ暗な視界にはどうしてもあの頃が浮かび上がってくる。一度思い出してしまえば頭から消し去るのに時間が掛かるし。困ったなあと、また軽く自分を馬鹿にするように笑う。

 いまさら。いまから。一文字違うだけで大分意味が違う。俺はシズちゃんに なにを言おうがすべて無意味だった。過去のことが俺となり、言葉は意味を持たない。どんな言葉だっていまさらなんだ。だが、いまからは、新たなスタートを切るんだろ。一から、最初からすべてを始める。俺たちにそんなことはできない。もうお互いのことは忘れられない存在だし、この関係は一直線同士で一生交わることなんてない。そんなの、そんなの分かりきっているのに。



「シズちゃん」

「池袋には来るなって」

「聞き飽きたよ」

 気付けば池袋に来ていた。いつも通り俺を見つけたシズちゃんはキレ出して側にある標識を引っこ抜いた。その目は本当に嫌そうに俺を睨みつけていて、俺は、それを、目を細めて見つめ返す。

「…………」

 もしも地球が二つあったとして、別の地球での俺達はどんな関係なんだろうか、と考えた。 友達だとしたら、日常を語り合う仲だとしたら。ナイフを握る手に力がこもる。

 そんな関係だとしたら、俺はその自分とシズちゃんを殺してやりたくなった。







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