「例えば、だよ」

 情事を終えた後、真っ暗な臨也の部屋の中。奴は俯せになって腕の上に顔を乗せたような体制でいて、俺はその隣に座って煙草を吸っていた時、いきなり臨也が言い出した。

「運命の人って、誰にだって必ず一人はいるじゃないか。でも俺達はお互い運命の人とは言い難い。それでも運命の人が現れてない今は一緒にいるね。例えば……例えばだよ。もしもシズちゃんの目の前に運命の人と俺が立ってたとする。そうしたら……選ぶのはどっちかなんて、決まってるよねえ」

「……なにが言いたい」

「別に。そこまで深入りしなくていいよ。例えばの話なんだから」

 俺のことを一瞥して臨也は枕に顔をうめた。俺はその姿を適当に見て流して、しばらく黙考した。まあ、そんなこと考えるまでもないけど。もう一度臨也に視線を向けてぐしゃぐしゃになったその頭に手を伸ばしてさらにぐしゃぐしゃにするように頭を掻き撫でた。


「ちょっ……やめてよ!」

 がばりと頭あげた臨也は苛々した様子で俺のことを見上げた。構わずに撫で続けると手首を掴まれてはがされた。抵抗する理由もないのでされるがままにしていると、手首を掴む力が弱くなってきて、ただ手を添えられているという状態になった。

「……どうしたんだよ」

「別にって言ってんじゃん」

「あのよお、別にって様子じゃねえから聞いてんだろ」

「…………」

「なーに不安になってんだよ」

 俺の手首を掴んでる臨也の手を、もう片方の空いてる手でかぶせるようにして包んだ。

「運命の人? くっだらねえ。興味ねえよ。そんなの」

「……は、はあ?」

「運命の人っつーのが現れたりしても、俺は絶対にお前を選ぶ」

「……なんでそんなこと言えんだよ」

「お前以上に好きになる奴なんていないって、俺の中で決まってるから」

「意味分かんない」

「そういうもんだろ」

 その言葉を聞くと、手をそのままに臨也は再び顔を枕にうめて、黙り込んでしまった。


「……泣いてんのか」

「なんで泣く必要があるの」

「いや、なんか、泣いてるかなって」

「……シズちゃんの馬鹿」



 それからはお互い無言のままだった。俺は顔を臨也の頭に寄せて頬を擦りつけるようにした。抵抗は、されなかった。
 というか、なんで始めから俺達は運命の人じゃないって決められてんだよ。俺は、お前以外に、誰もいないのに。頑固な奴だし、素直になれない奴だけど、どうにかしてその不安をすべて拭ってやれたらと、思ってんだけど、な







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