幸せとはなんだろう。俺には分からない。俺にだってできないことはある。手に入れたい情報が手に入らなかったり、友達だって何故か作れなかったり、ほしい物があっても買えなかったり、仲良くなりたいというか、普通に話したい人とも話せなかったり、そんな一般的なことが俺にはできなかったりする。だから、俺は普通に生きている人を羨ましく思うことなんて数えきれないほどある。非日常にまみれた生活は確かに楽しいけど、その分基本的なことができない手に入らない。本当に本当にほしいものが手に入らなかった。じゃあそれらが全て手に入ったら幸せなのかな。

「シズちゃんはいいよね」

目の前に対峙する男に嫌味ったらしく笑顔を向けて皮肉を言う。
 だってさ、そんな馬鹿力で外見も怖いのに、普通の友達がいて好きな食べ物があってそれを食べて満足して、時には誰かと一緒に食べに行ったりもして、普通に話しをしたりもして、シズちゃんは普通じゃないのに、なんでそんなに普通の生活ができるんだろうね。ずるいよ。
 そう言ってやれば微かに眉をひそめたシズちゃんが呆れたようにため息をついた。

「お前、馬鹿だなあ」

「は、馬鹿? 誰が、俺が? うわ、馬鹿に馬鹿って言われちゃった。どうしよう」

「あーうるせえ。馬鹿っつーか不器用?」

「馬鹿で不器用な奴に言われたくない」

「なんて言えばいいか分かんねえけどよ、つまりアレだろ? 俺も仲間に入れて的な感じだろ」

「……なに言ってんのシズちゃん。アホ?」

そもそもね、俺が言いたかったのは、シズちゃんは幸せなんだねってこと。人に囲まれて、好きなことができて、普通に暮らせてるシズちゃんは幸せだねって。だって俺がシズちゃんの立場だったら、認めたくないけど、きっと、すごく幸せなんだろうなって。

「有り得ねえ話しだけどよ、お前が俺の友達だったら、お前は幸せたったんだろうな」

「はあ? 気持ち悪いこと言わないでよ」

「そしたらお前がしたいこと、全部俺がしてやれるもんな。俺にはできないことがっても、俺と繋がってるだけで幸せなんだろうな」

そんなことない。言ってやりたかったけど俺は考え込んでしまった。シズちゃんと友達だったら、普通に、世間話なんかをして、一緒に飲んだり、肩を並べて歩いたり。そんなの普通のことだ。すごくすごくすっごく普通のことだ。それなのにそんなことを考えたら胸の内が温かくなって、満たされた気になって、なんだこれ?

「……やめてよ。そんなの、」

でもそれが幸せというのならば、俺は普通ということに焦がれていたわけではなくシズちゃんに焦がれていたということになる。そんなのって、おかしいよ。

「幸せなんて人によって形が違う。幸せなシズちゃんと一緒にいても俺は幸せになれない」

「そんなはずない」

「なに自信満々に言っちゃってんの? そうだな、でも、不幸せな君と一緒にいたら俺もちょっとは幸せになれるかもね」

不幸せなシズちゃんと一緒にいたって、俺のほしいものが手に入るわけではない。きっと、可哀相な人の側にいたって自分の気持ちはどんどん沈んでいくだけだと思う。幸せなシズちゃんといたらきっと俺も幸せになれるだろうけど、その分辛いと思う。ほかの人と一緒にいて笑ってるシズちゃんなんて見たくない。でも、不幸せなシズちゃんと一緒にいれば、すごく幸せになる。なぜか、そうなる。

「まあ、よ。お前の気持ちが分からないでもねえけどな」

「え?」

「俺も、不幸せなお前と一緒にいてえよ」



じゃあ、さ、二人で不幸せになろうよ。シズちゃん。そしたら、俺達は、幸せになれるよ。シズちゃん。







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