「つかれた……」

夜、今何時だろう。携帯を開いて時間を確認したら、うっわ有り得ない。0時過ぎてるんですけど。今日は久しぶりに真面目に働いちゃったよ。いや、いつも真面目に働いてるけどさ、今日はちょっとハードなのが多くてさ、……まあぶっちゃけると身体を売ってました的な。普段はこんなことしないけど、今日のはどうしてもほしい情報だったし、相手もいい男だったからね。しかしまあ、これが長くて、何回ヤったっけ。4回? とりあえず俺の身体はくたくただ。自宅兼事務所に入り、今日はもう軽くシャワーを浴びて寝てしまおう。そう思っていたのに、

「……なんでいるわけ」

「え、お前が来たい時に来いっつったから」

「なんで今日に限って来るんだよ!」

家の中は何故か明かりがついていて、ソファーにはシズちゃんが座っていた。……ねえ、なんで今日に限ってだよね。いつも来い来い言っても来ないくせに、ホンットなんで今日に限って。

「なんだよ……今日なんか都合悪いのかよ」

「今から寝ます」

「じゃあなんもねえじゃねえか」

「疲れてるんだよアホ!」

「アホ……?」

あ、やってしまった。そんなの今頃思っても遅いし、ソファーから立ち上がったシズちゃんがズカズカとこちらへ歩いてきて、逃げようにも後ろは本棚。ああ……終わった。

「臨也てめえよぉ……そんな口聞いたからにはどうなってもいいってことだよな」

「いえ、冗談ですすみません」

両手を挙げて観念したように見せるのだが、そんなことが通用するはずもなく、襟を掴まれそうになった。掴まれなかったのは、直前でシズちゃんの手が止まり、俺の鎖骨を撫でたからだ。

「……ちょっと、なに?」

「お前、これなんだよ……」

「あ?」

指が這わされてるとこに視線を寄越してみると、そこには蚊に刺されたような、痕。うわ最悪……つけられてたのか。しかもこんな目立つとこに。

「あー……えっと、これは、」

「お前帰ってくるまでになにしてたんだよ」

やばい。声が変わってきてる。これは、マジギレしそうな勢いだ。

「あ、うん。あれだよあれ。情報交換を……」

「ただの情報交換に、なんでこんなとこに痕つけられんだよ」

あれは仕方なかった。どうしてもどうしてもほしい情報だったし、普通に調べても出てくるようなもんじゃなかったし、だから。
 一応言っとくけど俺とシズちゃんは付き合ってる。部屋の合鍵を渡すくらいだしね。俺が経験をあることをシズちゃんは知ってるけど、付き合いだしてもまだ別の奴してるとは思ってなかったんだろう。俺だってしないように気をつけてたさ。でも、仕方なかったんだ。

「お前、最悪だな」

「……はは、最悪だね。俺」

殴られるかな。腹? 顔? いや、もしかしたら首を絞められるかもしれない。それなりの覚悟をしていたが、予想に反してシズちゃんはなにもしてこなかった。一瞬拳を上げられてびくりとしたが、それはそのまま力無く下ろされて、俺はそんなシズちゃんの動作をただ ただ見ることしかできなかった。

「つーかよ、お前、なんで俺と付き合ってんだよ」

「え、好きだから?」

「……近くに都合いい男がいれば誰でもいいんじゃねーか」

「そんなこと、ないって」

目を見てはっきり言えないのは、何故だろう。だって、ねえ、今回は仕方なかったんだよ。ホントに。この情報がなければいろいろと困るんだよ。それにいい男だったし……

「お前には、一生俺の気持ちなんて分からねえよな」

最後に一言そう言ってシズちゃんは出て行ってしまった。こんな、あんな顔するなんて。

「……はぁ」

付き合うってめんどくさいな。相手に気を遣わないといけないし。……それに俺のせいであんな顔されると、胸が痛むし。
 俺はいけないことをしたって自覚はあるけど、どうしようもないし、多分今後、今回みたいな情報交換があったらまた俺はするのだろう。だって、情報屋として、必要なことだし。それをシズちゃんに縛られるなんて、そんなの、
 ああもう、付き合うなんて、めんどくさい。







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