今日の天気は曇り。空を見上げると灰色の厚い雲が青さを覆っていて、それに比例して気持ちはどんよりするばかりで。思わず小さなため息が零れた。はっきり言ってしまえば憂鬱だ。こんな天気の日に、こんな奴に会わないといけないなんて。

「……なんの用?」

 池袋に行ったのは、仕事ではない。呼び出されたから来た。こんな日に外になんか出たくないし無視しようと思ったけど、しきれなかったのは会いたかったからかもしれない。そんなこと、思いたくないけど。
 俺が問い掛けたにも関わらず、目の前の男は黙りこくったまま。急に池袋に来いって言ったくせに、この態度。

「……シズちゃん、反応もなし?」

 はあ またため息をつく。俺帰っていいのかな? それでもやっぱり離れられなくて、この男の反応を待ってしまう。しかし何も喋らなくて、いきなり俺の腕を掴んできた。いきなりすぎて訳が分からない。少し抵抗したけど気にせずどこかへ連れてかれた。もちろん周りの人の視線は独占している。いつも激しい喧嘩をしてる俺たちが無言で一緒に歩いているのだから。そんなのどうでもいいけど、道を開けてくれるのは有り難い。
 連れて来られた場所は、人通りが多い道の、脇にある路地。奥のほうに入ってしまえば人の声は遠くなって、微妙に静かな空間が広がる。それにしても暗い。ただでさえ暗い日なのに光が入りずらい場所。

「ね、シズちゃん、こんな場所に連れてなに……」

 しかし言葉は繋がらなくて、壁に押しつけられて強引なキスをされた。

「――!? ん、んー!」

 唇を当てられるだけでなく、ぬるりと隙間から舌が侵入してきてその感覚にぞわぞわした。歯列をなぞられて、上あごを舐められて、舌と舌を重ね合わせて、好きなように咥内を蹂躙された。

「はぁっ……! は、ぁ、」

 ぷはぁ、口が離れて、息を吸い込んだ。あんな口づけじゃ呼吸する暇もない。一気に入り込んできた酸素に少し噎せているとシズちゃんは俺の上半身のインナーをたくしあげてきた。

「や、ちょ……なにして……」

 声が震えてしまう。周りの温度が低いこともあるし、肌を滑るシズちゃんの手がぴりぴりとした刺激を与えるから。
 鎖骨の下辺りまで上げたところでその手は止まった。次になにをするかと思えば、胸元に顔を寄せてきて、寒さでぴんとたったそれを舐めてきた。

「んっ! シ、ズちゃん……」

 ペロペロ舐められた後は真っ赤に熟れたそれを口に含まれちゅぱちゅぱと音を立てながら刺激されて、腰の辺りがむずむずしてきた。

「ん、ふぅ……シズちゃ、……するの?」

 刺激に耐えながら聞くと、顔を上げたシズちゃんと目が合い、今日やっと喋ってくれた。

「だめ、か?」

 ほかの問い掛けは総スルーだというのに、これだけに反応するっていうのはおかしな話だと思う。 今日のシズちゃんはどこかおかしかった。その声にいつもの調子はなくて、いきなり外でやろうとするし、よく分かんない。

「寒いんだけど」

「……いいだろ?」

「…………」

 無言で顔を歪めたが、シズちゃんはそれを無視して、ゆっくりとした動作でまた行為を再開した。今度は上ではなく、下で、ベルトを外しに掛かっていた。

「ホント、に、ここでするの」

「気にすんな」

 ズボンと一緒にパンツも下ろされてひやりとした空気が下半身にも伝わる。さむい。そんな俺に構わずシズちゃんは地面に膝をつき、驚くことに俺の性器をぱくりと口にくわえたのだ。

「やっ……! ちょ、やめ、だめ、だめだって!」

 なにがだめなのか分からないけど、まさかこんなことされるとは思ってなかったし、やだ、恥ずかしい。シズちゃんの口の中は熱くて、深くくわえ込みながらも手は後ろにある穴の辺りをなぞっていて、やばい。今にも足に力が入らなくなりそうだ。

「あ、そ、んな、いや……」

 顔を上下に動かされ、さらには舌で先端をぐりぐり刺激され先走りがたくさん溢れているのが分かる。指は、中に入っていて、拡げるようにぐるりと掻き回された。

「あぁっ……! うぁ、あ、だ、め、あ!」

 ついに足から力が抜けて、ガクリと地面に崩れた。シズちゃんも一緒になってしゃがみ込み、また深く口づけを交わした。

「ん、ふ……ん、」

 今度はすぐに離れたと思ったら、続くように指を押し込まれた。

「……しっかり濡らせよ」

 言われた通り、たっぷり唾液を絡めてやる。
 ちゅぷんと音を立てて抜き出され、指と口を透明な糸が繋いだ。その光景がなんかエロかった。

「あっ……ぅ、あ、中、な、か。ゆび、あぁ、!」

 そして一気に二本の指が挿入され、腹のほうに曲げられ前立腺をぐりぐり押された。腰がびくびく跳ねる。あ、あ、どうしよう。イっちゃう。イっちゃう……

「シズちゃ……シズちゃん! も、だめ……ぐりぐりしないで……や、ばいか、ら!」

「チッ……まだイくんじゃねーぞ」

 指は引き抜かれ、足りなくなった刺激を求めて後孔はひくひくと収縮を繰り返した。イく寸前で止められて身体中が甘い痺れに包まれる。

「早くっ……はやく、挿れて……」

 自分でもいろいろ言ってることが目茶苦茶なのは分かってるけど仕方ない。地面に背中を預けて、ひくつくそこを拡げてみせるとシズちゃんがゴクリと喉を鳴らすのが分かった。

「あっ――ぅあっ……あ、あ、シズちゃんの、おっきい、あぁっ……!」

 次の瞬間には一気に貫かれていて、俺の腹には精液が飛び散っていた。はー、は、と力無く呼吸をする。奥まで挿入しきったシズちゃんはそんな俺のことを見つめていた。

「、イっちゃ、た……はぁ、はっ……」

 身体が麻痺する。そういえば寒さなんて吹っ飛んでいて、今は汗をかいていた。そのことに笑う余裕もなくて、呼吸を落ち着かせることに集中した。が、

「っあ! な、シズちゃ、だめ、まだ動いちゃっ……」

「うるせえっ……イくなっつったのに、黙ってろ……」

「あ、あぁ、あ、や、ひぁっ!」

 ギリギリまで抜かれては、奥の奥まで突かれて。イったばかりの身体には刺激が強すぎる。涙で前が見えない。頬が、身体が熱い。俺が今どんな顔をしてるかなんて考えたくなかった。

「やぁあ……! きもち、い、ゃ、あっ」

 シズちゃんの顔が見たくて手を顔に持ってく。生理的に溢れた涙を拭ったのだが、次々と濡れてく。これは……雨。雨が降ってきた。ぼんやりと見えるシズちゃんはびしょ濡れで、遠くから聞こえていた人の声も聞こえなくて雨の音に飲まれていた。いつの間に、こんな土砂降りだったのか。そのことに気づいてるかどうかは分からないけど、シズちゃんはただただ俺を見つめて顔を歪めていた。

「あ、はぁ、も、……またイく、イくっ……」

 腰をがっちりと掴まれ、動きがはやくなって、シズちゃんも限界なんだなあと思った。俺に感じてくれてるんだってことに興奮してきゅうと中を締めつけると、よりリアルにシズちゃん自身を感じて、射精した。

「あ、ぁあ! ……は、ぁ――」

 イった時の締めつけでシズちゃんも身体を震わせながら熱い液体を俺の中に放った。
 お互いの熱い呼吸音が聞こえて、だんだんと意識がはっきりしてきて、雨の音がよく聞こえるようになる。

「ぅ……」

 シズちゃんの性器が俺の中から抜かれて、その感覚にぶるりと震えた。雨が顔に当たるのが厄介なので壁に沿って上半身を起こした。

「ねえシズちゃん……もっと……」

 シズちゃんの頬を両手で挟んで顔を寄せた。軽く、唇を重ねてから、またシズちゃんのモノが俺の中に入ってきた。










「……ん…………」

 目が覚めたらそこは知らない場所だった。ベッドの上、薄いシーツ。微かな雨の音が聞こえた。びしょ濡れだった身体は乾いていて、着ているものはワイシャツ一枚だけだった。重い身体を起こして辺りを見回したら、隣にシズちゃんが眠っていて、部屋にはヤニ臭さが充満していて壁は黄ばんでいた。ここは、シズちゃんの家だ。何度も身体を重ねたというのにここに来たのは初めてだ。小さい窓からどんよりとした灰色の光が射していて、あんまり時間が経過してないことが分かる。そこで、ふとベッド脇のテーブルに置いてあったあるものを見つけた。それに手を伸ばして見ると、写真には、ホテルに入る知らない人と、俺、が映っていた。

「…………」

 学生服を来ているから高校の頃だ。ということはこれは、見るからに援交をしていた時の写真。金が欲しくて欲しくてたまらなくて、その欲しさにそういうことに手をつけていた、頃の。

「…………」

 シズちゃんとセフレの関係が始まったのは高二から。援交はそこでやめた。中学の頃からずっと続けたそれをやめたんだ。ただ一人のセフレのために。シズちゃんは俺が援交をしていたこともやめたことも知らない。だからこの写真を見てなにを思ったのかは知らない。でも、急に池袋に俺を呼んで、なんだかおかしいあの様子を見てれば分かった。
 写真が置いてあった側には封筒があって、それを見てみると差出人のとこが空白だった。……でもこんな写真を持っていて、こんなことをする奴の正体なんて大体分かる。気に入らないが、俺を唯一上回るあの男。なんでこんなことをしたのか分からない。

「…………!」

 その時、俺の携帯が鳴った。側に畳んであったコートを拾ってポケットを探り、それを開くと、非通知からの着信だった。


「…………九十九屋」

『あはは、……分かってた、か』







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