来神捏造
彼と僕は中学からの付き合いで、お互い悪態をつきながらもよく一緒にいた。
まあ学校内では一緒にいるけど、帰り道は方向はバラバラで、どっちかに合わせようとなんてしなかったし、僕は一秒でも早く彼女に会いたかったから放課後一緒に遊ぶなんてこともしなかった。
それでも臨也と僕の間にはそれなりの仲ができていて、何気に、かなり仲良かった。
同じ高校だと分かった時もまた一緒かよ! と呆れつつ大笑いして、合格発表では嬉しくて抱き合った。おめでとう、と一言声を掛け合ってその後初めて学校以外で会った。一緒に夕飯を食べて夜の池袋で遊んだ。男二人だというのにプリクラも撮って、完全に酔っ払いのテンションだった。臨也と遊ぶのはこんなに楽しいんだって思った。元から遊んだりしたら楽しい奴なんだろうなって思ってたけど、こんなに楽しいとは思ってなくて、僕が解剖以外であんなに楽しいと思ったのは初めてだった。臨也は僕の唯一であって無二の存在で、臨也にとっても僕がそうであると思う。僕たちはお互い以外に友達なんていない。ちらほら話す人はいたけど、それは軽く合わせて受け流す程度だ。本音で本当の性格で語り合えるのは臨也以外にはいなくて、臨也も僕以外にはいなかった。
そして高校生になって、またこれからも変わりない臨也と二人で過ごす日々が始まると思っていた、が。クラス名簿を見て懐かしい名前を見つけた。
「静雄!」
始業式やらなんやらが終わり、彼のいる教室に行った。荷物をまとめて帰ろうとしていた静雄は目を見開いて俺を呆然として見て、そして気付いたのか、ポツリと呟いた。
「新羅、か?」
「そうだよ! うわあー久しぶりだね! 小学生以来か」
「そうだな……はは、お前相変わらず解剖とかしてんのかよ」
「もちろん! あ、そうだ。君に紹介したい人がいるんだよ」
懐かしいなあ。あの頃は茶色だった髪が金色になってる。背伸びたなー。思い出に浸っていたところで、新入生代表の言葉を担当していた彼を思い出した。職員室に呼び出されたりして忙しそうだったから話掛けずに帰ろうと思っていたが、これは、紹介したい。
「臨也」
職員室から出てきた臨也を後ろから呼んだ。振り返ったその目は俺を捉えると、隣にいる静雄を交互に見た。
「新羅? え、なに。帰ってなかったの」
「紹介したい人がいてさ。ほら、彼。僕と小学校が一緒だった平和島静雄。名簿で見つけて、再会してさ」
「……へー、新羅に友達とかいたんだ。ていうか金髪って不良チック」
「おい新羅、こいつ誰だよ」
「彼は僕の中学からの友達、折原臨也だよ。あ、顔はいいけどかなり性格悪いから」
「ちょっと新羅、一言余計」
「本当のことじゃないか」
「覚えてろよ……まあいいや。よろしく。平和島静雄くん?」
そう言って臨也が差し出した手を静雄は数秒戸惑ってから握り返していた。これからは、中学とはちょっと変わるかもしれない。
その通りに、臨也と二人だった学校生活は静雄くんも加わって三人になった。
「おい臨也! 手前なんだよこれ!」
「シズちゃんへ俺からのプレゼントだよ」
「ふざけんな!」
昼休み、落ち着いて弁当を食べれもしない。あれから臨也と静雄は仲良くなったというか、ぎこちなさは抜けて毎日喧嘩のようなじゃれあいをしていた。そんな二人を見てまったく、君達は。とため息をつくのが僕。今はこれが日常となっている。彼らはすっかり学校では有名な二人組となって、僕はそれに付き合わされる変わり者となった。ま、別にいいんだけどね。三人でいる空気、僕は嫌いじゃない。
ある日、一緒に帰らないかと臨也に誘われた。初めてのことだった。
「でも全然方向違うよ?」
「俺が新羅に合わせるからさ。いいだろ?」
「それならいいけど……」
今まで一度もこんなことなかったから多少なりとも僕はドキドキとしていた。また臨也と一つ新しいことをするのか、と。
「新羅とこうして一緒に帰るのって初めてだよね」
「ああ。そうだね」
「……あのさ、話したいことがあるんだけど」
「ん? なに」
臨也にしては、珍しくうじうじしていると思った。いつもよく回る口は閉じて、開くか開かないか、悩んでいて初めて目にするそんな姿にじっと、臨也を見つめた。
「いざや?」
「新羅、あのさ、俺、……うーん」
「なんだよ君らしくない。どうしたんだい」
「なに言っても引かない?」
「いまさらなにを言ってんだ。ここまで付き合ってきて僕も君も変わり者だってことは十分、分かっただろ。引くわけない」
「……俺、さ」
俯いていた臨也の顔が上がって、その表情は今までに見たことがないもので少し驚いた。
「シズちゃんのことが、好き、なんだよね」
え? 予想するどころか、考えもつかないその言葉に僕の歩く足は止まった。先を歩いていた臨也は立ち止まって静かに言う。
「……引いた?」
「あ、いや、引いてないよ! ……ただちょっと驚いて。だって君達、いつも喧嘩してただろ? ……その、好きって理由、聞かせてもらってもいい?」
「理由なんてないんだ。でも、好きなんだなって思う」
「……そっか」
僕は臨也の気持ちがよく分かった。だって僕がそうだから。彼女を好きな理由はって聞かれたらもちろん答えられるけど、でもそんな細々とした理由は実はどうでもいい。彼女が自身が好きだから。
「……頑張ってよ」
「……はは、さっすが俺の友達務めるだけある。新羅ってやっぱ変な奴だ」
「だろ?」
そしてそれから数日後、静雄にも同じような相談をされ、僕は彼らの恋のキューピッドとなり、二人は見事付き合うことになった。
「臨也ふざけんな! 待ちやがれ!」
「待てって言われて待つわけないじゃん!」
それでも彼らは喧嘩、というか追いかけっこを続けていて、昼食もそのままに屋上を飛び出て行った二人の背中を見送って、フェンス越しに空を見る。
「悲しいなんて、思うなんてね」
足をぶらぶらと揺らす。そういえばこうして一人でいることに慣れたが、今までに一人だったことなんてなかった。
臨也がいたし、静雄がいたし、でも一人も案外悪くない。好きなように自分の時間を使えるから。
それでもよく思うのは、またあの日のように臨也と夜、騒ぎたい。
「あ、新羅!」
「あれ? 追いかけっこは?」
臨也が屋上の扉を開けて戻ってきた。静雄は臨也の後ろからノロノロと歩いて来ている。どういう展開?
「シズちゃんと話して決めたんだけどさ、今度三人で夜遊びに行こうよ」
「え?」
「お前には、その……いろいろ迷惑掛けたからな」
照れてるような静雄、ニコニコしている臨也。
一人もいいとか言ったけど、でもやっぱり誰かがいてくれた方がいい。まだまだ先は長い。これからの学校生活に期待なんてしてみた。
1009222041
|