臨也はなかなか来なかった。今で二時間は待ってる。ふざけんなレポートどうしてくれんだよ明日までに提出なんだぞ。
 ……と、考えているのだがそれなら帰ればいいじゃないかという話しで。なんで帰らないのかというと帰れないからだ。俺は帰ろう帰ろうと思ってるのに身体が動いてくれねえ。きっと疲れてるんだ。そう思うことにしてそれについて考えることをやめた。あー……てか腹減った。昼過ぎてるし。なんかコンビニで買っとけばよかったな。そんな無駄遣いしたくないけど。昼前には帰れると思って昨日の夕飯のカレーの残りを食べると決めてたんだ。ご飯も予約で炊いてあるし。今頃煙りが炊飯器から出てるんだろうな。

「おーい。静雄くん」

「ちょっと待て話し掛けんな。俺はご飯をどうしようかと……」

誰だこんな時に話し掛けてきやがって……って今の声、

「臨也!?」

「ごめんね。ずいぶん待たせちゃったみたいだね」

「い、いや、別に。考えごとしてたし」

「ご飯の?」

「あー、ご飯だったりレポートだったり……」

「あは、そっか。ねえねえ、昼はまだ?」

「ああ……まだ、だけど」

「じゃあ一緒に行こう。いい場所を知ってるんだ。奢るよ」

昼飯は用意してあるし、少し話して終わりかと思っていたから戸惑いはしたが臨也が俺に手を差し延べてきて自然と取りそうになった。が、

「じ、自分で立てる」

なんで手を繋ぐんだとか思って手を取らず立ち上がる。臨也は苦笑いをしてじゃあ行こっかと踵を返した。この時点で行くことが決まってしまい、断ることもできなくて少し距離をあけてその背中に着いて行った。

「静雄くんは、好きな食べ物とかある?」

「いや、特に……」

「そっか。今から行くとこパスタ屋なんだけどいい? すっごくおいしいんだ」

「ああ、はい」

距離をあけて歩いていたはずだが……気づいたら臨也は横に並んでいて普通に会話をしている。なんだか気まずくて、というかうまく話せなくて反応がボソボソとしたものになってしまう。

 パスタ屋に着いて
、向かい合って座ってそれぞれ注文を済ませる。臨也の言った通り確かにうまかった。茹で具合抜群で味ももちろん良くて、すっきりとした後味となった。でも食事中もやっぱり話せなかった。そして会計で臨也が全額出そうとするのでそれを止めると臨也はこう言った。

「助けてくれたお礼だ」

「別に礼なんていいって。俺も払うから」

「それじゃあ俺が満足いかないんだ。恩を残しておきたくなくてね」

有無を言わさない物言いで、俺は思わず口を閉じてしまった。結局全部払ってもらうことなり、気まずさが増した感じがした。

「静雄くんさあ、あのDVD見た?」

「あ、あのDVDって、なんのDVDだよ」

「俺があげたDVDだよ」

分かってたけど一応聞いてみたが……やっぱりそうだった。そんなこと聞かれて見ましたなんて言えるわけねーだろ。

「見るわけないだろ!」

「やっぱりー? 静雄くん見そうにないなーって思いながらも置いてったんだけど……まあ握手会に来たってことはパッケージは開いてくれたんだね」

「あ、あれは事故だ! てか、白々しいんだよ。お前、俺が来ること分かってただろ」

「えー? なんでそう思うの」

「準備がよすぎる」

「バレてたか」

「当然だ」

臨也は舌を出して、テヘッと首を傾げた。なんだ今の気持ち悪い。男のくせに女みたいな仕草……と、そこでふと思ったのは、その男を見ながら俺は抜いたんだと。せっかく話せるようになってきたのに、それを思い出してまた気まずくなってしまった。

「ねえねえ、今からホテル行かない?」

「は? なんで。家遠いのか」

「違うよー。静雄くんっておっもしろい!」

「じゃあなに……」

「ラブホテル行かない? って誘ってんの」

「…………はあぁ!?」

なにを言い出すこいつ。男で抜いたという過ちを犯した俺はとち狂ってると思ったが俺はこいつに比べればまだ正常のようだ。だって、え? 会って間もない俺を、普通の大学生の俺を、男の俺を、ラブホテルに誘いやがった。

「お、前ラブホテルでなにすんだよ!」

「それを聞いてくるってことはもうなにするか分かってるくせに」

「ちょ、待てよ! ヤりたいならほか当たれ! お前のファンなら大量にいんだろ!」

「分かってないなあー静雄くんは。わざわざDVDとか握手会の優待券を置いてったり、君だけを特別に呼び出した時点で分かんないかなー?」

「なにがだよ……」

「気に入ったの。静雄くんのことが」

誘うような表情をしながら唇を指でなぞられてゾクゾクした。DVDで見た、画面の中でめちゃくちゃに乱れてた奴が目の前にいる。その事を実感して腰の辺りがずくずくした。
握手会に来て勃たせてる奴を見て変態と思ったけど、俺もあいつらと変わりないじゃねーか。







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