駅の中でシズちゃんを待ってる間いろんな人間を見た。俺は仕事の帰りにそのまま池袋に寄ったので2時間も待ち合わせに早く来てしまった。でも一回帰るのも面倒だしどっかのカフェに行く気もしなくて、壁に寄り掛かって携帯を弄っていた。でもとくにやることもなくてポケットに閉まった。
 顔を上げて周りを見る。学生や会社員が時計を見たり携帯を見たりして時間を潰している。誰かと待ち合わせをしているのだろう。あー、でも、あのスカートが短い女の子。あの子は違うな。待ってる人なんていなさそう。きっと援交してくれる人でも待ってるんだろう。それも相当長い時間。携帯に目を伏せては目線だけ上げて会社帰りの年齢が少しばかりいってる人をちらちらと見ている。おもしろいなあ。話掛けようかな。ああいやそれよりもほかの人を見てみよう。
 あそこの大学生。あれは彼女を待ってるな。今にも走り出してしまいそうなほどにわくわくしている。若いねえ。俺もまだ若いけど。あそこにいる人はドタキャンでもされたかな? すっごく苛々してる。さっさと帰ればいいのに待っちゃって……来てくれるって期待が残ってるんだね。可哀相に。おっと電話だ。


「もしもし」

『臨也? 悪いんだけど今日の仕事増えちまって、約束に全然間に合いそうにねえんだけど』

「ああいいよ。待ってるから。てかもう池袋いるし」

『は!? もういんのかよ! いや、マジで会えなさそうだから帰っとけって』

「いいよ。深夜だろうと待ってる。てか俺今楽しいし」

『は?』

「東口にいるから。仕事終わったら来てね! それじゃあ!」

ぶちっ 俺から通話を終了する。今は人間観察が楽しいんだ。待ってるのなんて苦じゃない。それからまた人を見る。あ、ふとドタキャンされたと思われる男に目を向けた。そこに近づく女が、一人。そしてその女が男の肩を叩き、振り返ってその姿を見た男はさっきまでの苛々した様子が嘘のように。まるで花が咲いたみたいな笑顔になって、二人は少し言葉を交わした後 手を繋いで歩いて行った。……ふーん。なんだよ今の。全然楽しくない。俺もシズちゃんに会いたくなっちゃった。いや、会いたいんだけどさ、深夜まで待ってられるほどには会いたかったのが今すぐ会いたいになっちゃったよ。あーあ。今が16時だから……さいてい7時間は待つかな。うっわどうしよ。会いたくてたまらない。


「あの……」

「へ?」

目の前に影が掛かったと思ったら見知らぬ男……というかおじさんが立っていた。


「ちょっとでいいんです。時間ありますか」


 これは、あれか? 援交だな。抱かせろってか? 俺男なんだけど。

「あー、え と、そういう誘いならあそこの女の子に……」


と、さきほど見ていた女の子を指さした。しかしおじさんはそっちに見向きもせず俺を前に息を荒げていた。え、と、うん。気持ち悪い。


「あの、俺男」


「分かってますけど、触ってもいいですか」

触るって、なにを。と思っていたら、頬に手を添えてきた。ちょっと待て。

「いや、ちょ、やめろって」


抵抗しようとして、そうだ股間を蹴り上げようと思ったら、頬を撫でていた手が離れた。いや、正確に言うと、取られた。


「よお臨也」

「あれシズちゃん?」

シズちゃんがおじさんの手を取ってミシミシと力を込めていた。おじさんはもちろんのこと呻いて痛々しげに顔を歪めていた。

「なんで? 仕事は?」

「早退してきた」

「借金取りに早退とかあるわけ?」


「一応ある」

「ふーん……てか、そろそろ離してやりなよ」

「やだね。臨也に勝手に触った奴なんだ。殴らねえと気が済まねえ」

「……それよりも、俺は抱きしめてほしいの」


「…………ああるほど分かった」

手を離しておじさんを解放したシズちゃんはすぐに俺を抱きしめてきた。俺は首に手を回して、耳元にそっと囁いた。

「会いたかったよ」


「……ばっか。なにしてんだよ。隙だらけなんだよ手前は」


「俺が隙だらけ? なにそれ笑える」


「……行きたいとこあるか?」

「んー……どこでもいいや」


俺は、人を見てるのが楽しかったのに、シズちゃんに会った途端周りの人が目に入らなくなった。それに思えた。シズちゃんと一緒ならどこにでも行っていいって。
 あのカップルにも、彼女を待ってる大学生にも、援交を待ってる女にも、それぞれの世界があってどこかでこうして幸せを見つけているのだろう。だとしたら、俺の幸せはここだ。

シズちゃんの側だ。







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