俺はアホか。だってなんでせっかくの休日にこんなとこにいるんだ。周りの奴らはガヤガヤガヤガヤうるせえし、暑苦しいし、なんもいいことねえよ。家で昼まで寝てれば良かった。

 ……と、俺は現在どこにいるのかというと、某ビルの3階。折原臨也の握手会会場にいた。てかなんなんだよ。周りは太った奴だったり筋肉ムキムキの奴ばっかりだ。普通なはずの俺が浮いてるように思える。つーか、股間盛りあがってる奴がいるんだけど……きめえ。ほかの奴が勃起してるとことかマジ見たくねえんだけど。俺もう帰っていいかな。

「ただいまより折原臨也の握手会を始めまーす。まずは優待券を持ってる方、こちらに一列に並んでください」

踵を返そうと思った時、タイミングを見計らったかのように係員の声が掛かった。小さく舌打ちをして俺は歩き出した。
ほかにも優待券を持っているであろう奴らが指定された場所にものすごい勢いで列を作る。うっわすげえな。のろのろと歩いた俺はもちろん最後尾になってしまった。てか何人くらいいるんだ? 優待券の裏を見てみた。どうやら50人らしい。ってことは最低一時間は待つことになるかな。あー面倒くせえ。


 カチカチと携帯を操作して時間を潰したり、帰ったらレポート仕上げないとなーとか考え事をしたりしていて気づけば列は大分進んでいた。
 列の横から顔を出して前の様子を伺ってみた。そこにはにこやかに笑って握手する臨也の姿があって身体がカッと熱くなった。いやいやなに熱くなってんだ俺。握手してはすぐに出口へ誘導されていて進むのは意外と早かった。次で自分の番となったところで逃げ出したくなったが本気で逃げようとはしなくて、ついに来てしまった。

「こんにち……あれ? 静雄くん!」

「あ……え、と、うん。来た」

しまったなにを言うか考えてなかったと思った時はもう遅くて変に緊張してしまった俺はうまく喋れなかった。

「久しぶりーってほどじゃないね。あの時はありがとう。はい握手」

「あ、ああ」

手を出されほぼ反射的に握ってしまった。……ん? 握られた二人の手の間にはなにかがあった。カサ、と小さく音が鳴ったような気がした。

「またね」

手を放す時、わけも分からず俺はそれを握った。そしてその場を離れる際、臨也が小さく周りには聞こえないようにまたねと言った。
 正直あっけなくて、もっと大きな反応をしてくれるのかと思ったが、結構普通で一瞬で終わってしまった。ちょっとがっかりしてるかもしれない。……って、んなはずない。戻ってこい俺の思考。

 ビルを出たところで手に握っていたものを見た。それは小さなメモ用紙のようでぐしゃぐしゃになってしまっていた。開いてみるとなにか書かれていた。

「えーと裏の出口で待ってて。……あ? なんだこりゃ」

これ、は俺に渡したんだよな……? 裏の出口で待ってて。いやちょっと待て。優待券を持ってた奴らの握手会は俺で終わったけどまだ一般の握手会があるんだろ。どんだけ待てばいいんだよ。レポート残ってんだよ。てか裏の出口ってどこだよ。
探すべくビルの周りを歩き出す俺。別に行かなくてもスルーしていいだろうと思ったけど、なんだか特別扱いされたみたいで嬉しくて自然と歩き出していた。あ、俺は断じてあいつにその気があるとかそれはない。

裏っつーことは正面の入口の反対だよな。そっち側に行くと警備員がいた。これ入れなくないか? と、思ったのだが。

「あ、平和島静雄さんですね!」

「は?」

警備員が声を掛けてきた。俺はなにがなんだか分からず頭に疑問符を浮かべていたが次の言葉で理解した。

「折原臨也さんにあなたを誘導するよう頼まれました」

そして案内された先、裏の出口の側にあるベンチに座って俺は臨也を待つこととなった。てか思ったんだけどよ、紙渡されたり、警備員に頼んであったり、あいつは俺が来ることをお見通しだったってわけかよ! 恥ずかしいというかなんだか恥ずかし悔しくて帰ってやる。と思ったがやっぱり帰れなくて膝の上で渡された紙をぐしゃりと握って耐えた。臨也と会ってなにを話すっつーんだよ俺。今度こそ考えとこう。ってふざけんなあいつから誘ってきたんだから俺はあいつの話しに反応するだけでいいんだそうしよう。そんなことをもやもやと考えていたのだが、俺は根本的なおかしいことに気づいていなかった。握手会に来た時点で俺は臨也の道に引きずられていたんだ。







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